7/18 お題「私だけ」
友達がいないのは、私だけ。
部屋に留められて難しい勉強をするのは、私だけ。
自らの望む結婚相手を決められないのは、私だけ。
世を去った伴侶に最後の口づけをすることすら許されないのは、私だけ。
そして今。
「約束してくださいますね。必ずや、我が民を開放してくださると」
「ええ。お約束いたしましょう。では、壇上へ」
毅然と断頭台に立つ。これは、王妃としての最期の務め。
この国の民を救うことができるのは、私だけ。
(所要時間:7分)※構想除く
7/17 お題「遠い日の記憶」
真夏。久しぶりに訪れたプール。
水の中に沈んでいると、思い出す。
生まれたばかりの自分は、水底を流されるばかりだった。
さまざまな生き物の気配がした。日を陰らせるほど大きなもの、ごく小さな自分よりもさらに小さなもの。
世界は活発で、しかし静かだった。
どのくらい経たか、ヒレのようなものを動かすことを覚え、泳ぎ、捕食され、あるいは子を残し、また生まれ。
水は、全ての記憶をつなげる。ふとした拍子に、この身が記憶とともに溶けてしまいそうになる。
水の中は、懐かしい音がする。いつまでも聞いていたい、音。
(所要時間:9分)
7/16 お題「空を見上げて心に浮かんだこと」
空を見上げていると、お前の顔が思い出された。
幼なじみで、同じ学校で、お前は大学には行かず地元で就職して、都会で傷ついて帰ってきた俺と結婚し、長く連れ添って、そして―――
もう見ることの叶わない、しわしわの穏やかな笑顔。
あれから半年。向こうで元気でやってるか。そう願ってやまない。
「―――きゃあ!」
後ろで驚いたような声と、どさりという音がした。
腰を撫でながら起き上がったのは、お前だった。
「あらあら。ごめんなさいね、一目会いたかったのだけど、まだ飛ぶのに慣れていないものだから」
白い羽を背負って、お前はしわしわの顔で笑った。
(所要時間:9分)
7/15 お題「終わりにしよう」
追われて来た。十年。百年。千年の時をさかのぼっても、奴は追いかけて来た。この世界から、私を抹殺するために。
私はただ、守りたいものがあるだけだ。たとえその結果が世界を破滅に導くとしても。
奴が追いついて来た。私は奴に向き直る。
静かに、奴が口を開く。
「もう、終わりにしよう」
「いいだろう」
ここで仕留める。意志を確固にし、私は天高く両腕を掲げる。大気中のエネルギーが、私の両手に集まって来る。
「さらばだ、父上」
「ああ。さらばだ、我が娘よ」
奴は剣を抜いた。その切っ先が届くのが先が、その身が燃え尽きるのが先が。
私の全てを賭けた闘いが、今、始まる。
(所要時間:11分)
7/14 「手を取り合って」
マルテ国とアドレア国との和平が成った。酒場はその話題で持ち切りだ。長い戦争状態にあった両国が、平和に向かって一歩を歩み出したのだ。
「ま、シュデーア連合サマサマだろうな。相当圧力かけてたらしいからな」
「でも、平和になるのはいい事でしょう?」
「ハッ。俺ら傭兵は商売上がったりだ」
給仕の娘と言葉を交わし、麦酒のジョッキを呷る。娘は掲示板を指した。
「だったら、荒れた土地を再興する仕事が入ってますよ?」
「今更真面目に働けってか」
「真面目かどうかはわかりませんけど、東マルテは元々葡萄の名産地ですから、私の好きなお酒がうちの酒場に入るようになるんですよ〜。どうです? ここはひとつ、協力してくれません?」
掲示板から件の依頼書を剥がし、にこにこと持ってくる。
「やなこった」
右の口角を上げて笑い、依頼書をひったくった。
(所要時間:12分)