KaL

Open App
7/18/2023, 11:36:47 AM

7/18 お題「私だけ」

 友達がいないのは、私だけ。
 部屋に留められて難しい勉強をするのは、私だけ。
 自らの望む結婚相手を決められないのは、私だけ。
 世を去った伴侶に最後の口づけをすることすら許されないのは、私だけ。

 そして今。
「約束してくださいますね。必ずや、我が民を開放してくださると」
「ええ。お約束いたしましょう。では、壇上へ」
 毅然と断頭台に立つ。これは、王妃としての最期の務め。
 この国の民を救うことができるのは、私だけ。

(所要時間:7分)※構想除く

7/17/2023, 11:51:42 AM

7/17 お題「遠い日の記憶」

 真夏。久しぶりに訪れたプール。
 水の中に沈んでいると、思い出す。
 生まれたばかりの自分は、水底を流されるばかりだった。
 さまざまな生き物の気配がした。日を陰らせるほど大きなもの、ごく小さな自分よりもさらに小さなもの。
 世界は活発で、しかし静かだった。
 どのくらい経たか、ヒレのようなものを動かすことを覚え、泳ぎ、捕食され、あるいは子を残し、また生まれ。
 水は、全ての記憶をつなげる。ふとした拍子に、この身が記憶とともに溶けてしまいそうになる。
 水の中は、懐かしい音がする。いつまでも聞いていたい、音。

(所要時間:9分)

7/16/2023, 1:30:10 PM

7/16 お題「空を見上げて心に浮かんだこと」

 空を見上げていると、お前の顔が思い出された。
 幼なじみで、同じ学校で、お前は大学には行かず地元で就職して、都会で傷ついて帰ってきた俺と結婚し、長く連れ添って、そして―――
 もう見ることの叶わない、しわしわの穏やかな笑顔。
 あれから半年。向こうで元気でやってるか。そう願ってやまない。
「―――きゃあ!」
 後ろで驚いたような声と、どさりという音がした。
 腰を撫でながら起き上がったのは、お前だった。
「あらあら。ごめんなさいね、一目会いたかったのだけど、まだ飛ぶのに慣れていないものだから」
 白い羽を背負って、お前はしわしわの顔で笑った。

(所要時間:9分)

7/15/2023, 10:59:06 AM

7/15 お題「終わりにしよう」

 追われて来た。十年。百年。千年の時をさかのぼっても、奴は追いかけて来た。この世界から、私を抹殺するために。
 私はただ、守りたいものがあるだけだ。たとえその結果が世界を破滅に導くとしても。
 奴が追いついて来た。私は奴に向き直る。
 静かに、奴が口を開く。
「もう、終わりにしよう」
「いいだろう」
 ここで仕留める。意志を確固にし、私は天高く両腕を掲げる。大気中のエネルギーが、私の両手に集まって来る。 
「さらばだ、父上」
「ああ。さらばだ、我が娘よ」
 奴は剣を抜いた。その切っ先が届くのが先が、その身が燃え尽きるのが先が。
 私の全てを賭けた闘いが、今、始まる。

(所要時間:11分)

7/14/2023, 11:22:09 AM

7/14 「手を取り合って」

 マルテ国とアドレア国との和平が成った。酒場はその話題で持ち切りだ。長い戦争状態にあった両国が、平和に向かって一歩を歩み出したのだ。
「ま、シュデーア連合サマサマだろうな。相当圧力かけてたらしいからな」
「でも、平和になるのはいい事でしょう?」
「ハッ。俺ら傭兵は商売上がったりだ」
 給仕の娘と言葉を交わし、麦酒のジョッキを呷る。娘は掲示板を指した。
「だったら、荒れた土地を再興する仕事が入ってますよ?」
「今更真面目に働けってか」
「真面目かどうかはわかりませんけど、東マルテは元々葡萄の名産地ですから、私の好きなお酒がうちの酒場に入るようになるんですよ〜。どうです? ここはひとつ、協力してくれません?」
 掲示板から件の依頼書を剥がし、にこにこと持ってくる。
「やなこった」
 右の口角を上げて笑い、依頼書をひったくった。

(所要時間:12分)

Next