7/8 お題「街の明かり」
坂を登り切って、盆地を見下ろす。日が傾き山々の陰が落ちる、懐かしい故郷。
帰るべき場所に、生きて帰って来た。思わず長い吐息が漏れる。
山を下るに連れ、夜が濃くなるに連れて、故郷にぽつりぽつりと明かりが灯る。
その中でも特に温かく、明るい光を知っている。
孤児だった自分を引き取った育ての親と、同じ環境のきょうだいたち。故郷を初めて出てから、何ヶ月ぶりだろう。
皆と再会し、無事を喜び合い、食事を取り、たっぷりと休息したら、自分はまた旅立つのだ。
―――次の標的(ターゲット)を仕留めに。
(所要時間:10分)
7/7 お題「七夕」
よりによってこの日に喧嘩をするなんて。溜息しか出ない。もっとも、この日でなければ喧嘩すらできないのだが。
家臣たちと共に牛車に揺られ、川が後ろに遠ざかって行く。謝ろうにも、来年まで会えない。こんな重い気持ちを抱えたまま、一年を過ごさなければならないのだ。
その時、背後から声がした。
「おーりーひーめーーーー!」
はっとして振り返り、牛車から身を乗り出す。その声も、川向こうの姿も、覚えがありすぎた。
「彦星さま?!」
「織姫、ごめん!! 来年は、」
彦星は星の川の向こうで、両手を口に添えて力の限り叫んでいる。
「来年はちゃんと、織姫の好きなチョコミントのアイス用意しとくからねーーー!!」
「…織姫様、その…、チョコミント派でいらっしゃるのですね…?」
「………………ばかーーーーー!!!!」
(所要時間:12分)
7/6 お題「友だちの思い出」
あれから8年経っていた。
「…懐かしいな」
「そうだね」
「クリスマスにおまえんちで麻雀した時にさ、あいつ、夜中じゅうケーキ食ってたよな」
「あれ罰ゲームじゃなかった?」
「そうそう。ていうか誰だよ、バイトで余ったの持ってきた奴」
「僕」
「ひでえなー!」
「いや、食わす方がひどいだろ」
酒を飲みながら話は盛り上がり、やがて。
「いいやつ、だったよな…」
ぽつりと落ちたつぶやきの後、部屋は静けさに満ちた。
俺はまだ、あいつらの思い出の中に存在するようだ。
8年。ようやく犯人は見つかって逮捕され、俺が思い残す事はなくなった。
8年ぶりに、穏やかな笑みと、温かな涙がこぼれた。
(所要時間:8分)※構想除く
7/5 お題「星空」
杯で水をすくい、天球にぶちまければ、それは星になる。
指の先で一条の線を引けば、それは流星になる。
何もかも趣味でやっていたようなものだったが、ここ千年以上は、先回りして面倒な計算をやらねばならなくなった。後付けで作った法則に乗せ、様々なノイズを用意し、まだ「観測」されていない天体の位置を微調整する。
やれやれ。困ったものだ。
幾千年もこうして作って来た夜空は、どういうわけか人間に希望を与える。実に不思議なものだ。
今も、この夜空を見上げる数多くの瞳。笑んでいる者、泣いている者、決意を秘めた者、憧れを抱く者。
まだしばらくは、この趣味を止める気にはなれそうにない。
やれやれ。困ったものだ。
(所要時間:13分)
7/4 お題「神様だけが知っている」
僕があの子に恋してること、
神様だけが知っている。
銀の御髪の美少年、
頬は桜の花弁のよう。
優しい心を秘めたまま、
憂いの瞳は何を見る?
―――僕が恋してるなら、神様の他に僕も知ってるじゃないかって?
そんなことはないんだな。なぜなら、僕が神様だから。
(所要時間:5分)