「無垢なやつがすげーんじゃないよ」
こん、とあいつの靴先で蹴飛ばされたよくわからないゴミが鳴る。
「無垢でいても許される環境がすげーの。…あーでも、そーゆー環境を引き寄せられる無垢な奴が結局サイキョーってことかな」
少し自虐入ってない?
無垢ってなんだろう。子供の頃の自分は無垢だったのか。
考えてもわからない。子供でも打算計算は少しはあったし。赤ちゃんまで戻れば無垢か?
「…しかたない。そんなに無垢に憧れんなら、オムツ買ってやるよ」
「おまえ、バカ?」
2024/05/31 無垢
「あいつにとってとうめいになりたい」
こいつが『あいつ』と言うのは大体ハハオヤのことだ。
それを黙って聞く。
「見えなくなりたい。そうしたら何も言われない」
「でも、触ってほしいんだろ?」
言っちゃった。黙って下向いちゃった。
黙って聞くのに、失敗した。
見られたくない何も言われたくないでも触れられたい。
だから透明になりたい。
2024/05/21 透明
「あった」
「ねぇよ」
「あったよ!」
「絶対ねぇよ!」
コンビニの店員が騒ぐ自分たちを見て少し心配そうに眉尻を下げている。
それもそのはず。ツレが泣きそうな顔で騒ぐのでおさえるこっちも必死だ。
「この前来た時おでんあったもん! ぜったい! あった!!」
「この前って先週お前と一緒に来た時すでに無かったわ! 店員さん困らせんな! ホットスナック買って大人しく帰れ!」
「かまくらはんぺん〜!!」
2024/05/19 突然の別れ(?)
「いや、あれはモンキチョウ」
「否定から会話に入るのマジでやめた方がいい」
「会話をやめても色は変わらない」
「可愛げがない」
意外といないモンシロチョウ。
小ぶりなアゲハチョウが飛び始める季節。
羽化したてなのか、イメージより一回り小さい派手なチョウを見ていたらささやかなチョウを見たくなった。寄り道までして。
バカだなぁと思うけど、今だけかもしれないからよしとする。
「いねぇ。おまえが飛べ」
「心が白いと、無垢だと言いたいのかな?」
「それは頭の中だけの話」
勢いよく振られた拳をよける。
「ついでにノートも真っ白だな」と追撃したら、カバンを投げてきた。
チョウじゃなくてゴリラだったか。
2024/05/10モンシロチョウ
「万引き?」
「するか。だせぇ」
秘密の話があるというから小声で聞いたら吐き捨てられた。
冗談に決まってる。
「で、なに、わざわざ人に言いたくなる秘密って」
「うるせーな」
「言い出しといて何いってんだ」
「黙って聞け」
はいはい、とわざとらしく耳に手を当てて数秒。
「プレゼント買った。ハハオヤに」
それは大事件だ。
「えらいじゃん」と軽く流すと「うっせ」と言われた。
2024/05/03 二人だけの秘密