冬になったらずっと着たかった黒のコートを着るんだ。
手袋も前の冬の終わりに買った少し安くなったけど質のいい革物。
毎年巻いてるお気に入りのマフラー。
イルミネーションもきれい。無駄にわくわくする。
何もないのに楽しそうなふりして歩いても許される感じ。世界が優しい。
なのにとなりにあんたがいない
冷たい空気に生理的に溢れた涙が視界を滲ませる。
すべてを包み込むように柔らかく縁取られた世界。
なのに私は拒絶されているようにしか感じられない
2023/11/17 冬になったら
「なんかの歌詞みたい」
「そうだね。続きは何が浮かぶ?」
秋空を見上げる高い鼻筋。
バレないように視線でなぞる。
「せーので言お?」
「いいよ。せーの、」
あなたとわたし ここでバイバイ
あなたとわたし これからふたりで
「なにそれキショ」
「悲観主義? もてないよ」
ズレた会話を、今日も二人で。
2023/11/07 あなたとわたし
なでるみたい
なまあたたかい
「あ、起きた」
雨にうたれるなんてごめんだけど
あんたの気まぐれな手なら
わるくない
2023/11/06 柔らかい雨
真っ暗な中にぽつんとあったら
そりゃ誰でも飛びつくじゃん。すがるじゃん。
それがすんげー小せぇほっそい光でも、実はゴミを透かした光でも自分の救いだと思い込むじゃん。
思い込むまで足りなくても、見た瞬間の心臓がぎゅぅって掴まれた瞬間は忘れられないだろ。
だからそれが嘘とか汚いととかどうでもいい。
わかっててそれを正せない時点で自分も同類。
だから並んで同じように笑って見せる。
光なんかない昏い目のくせ、人を導くように笑うのが上手いヒトモドキ。
2023/11/05 一筋の光
「ネコの後ろ姿ってなんかさみしースよね」
「ネコ、の、後ろ姿?」
怪訝に聞き返されて「あれ?通じなかった?」と思い至り、この人情緒たりねぇからな、と納得する。
「ほら、ネコってあれ、撫で肩じゃん」
言いながら数メートル先のアスファルトに座る野良猫を指差す。尖った耳。まるいあたま。すとんと落ちてどこかさみしい肩。丸い腰。
ぱたり、と長い尾が物言いたげに地面を叩く。
「ね?」
「……面白い話のひとつとして聞いておくよ」
隣で少し首をかたむけたこの人の肩は、糊のきいたスーツに覆われどんなかたちか見えなかった。
そとからはみえない なかのかたち。
2023/11/04『哀愁をそそる』