【大事にしたい】
私はベテラン社員。
既に完璧になりつつある私であるが、未だ経験のない役割がある。
新人教育だ。
しかしそれもすぐに過去の話となるだろう。
明日から来る新人の教育担当は私なのである。
無論心構えも完璧だ。
高圧的な態度や言動は当然しないし、無理な仕事も与えない。暴力なんてもってのほかだし、最近話題のLGBTへの配慮も完璧にこなすつもりだ。
明日から私は教育の天才と呼ばれることだろう。私は成功を確信した。
─3日後
「やり直しだ!」
私は新人が作った企画書を破り捨てた。今日も残業フルコース確定だ。
「お前のせいでみんなが迷惑してるんだよ。死んでお詫びしろ」
私はイスを蹴飛ばした。
新人は縮こまって震えている。まったく情けない。
「ナヨナヨしてんじゃねーぞ。それでも男か」
しかし、ここで思わぬ反撃があった。新人はポケットからスマホを取り出し操作を行った。
するとさっき私が言った言葉が再生されたのだ。
録音していたのか。
新人はニヤッと笑った。
「いい加減あんたの横暴にはうんざりしてたんだよ。これを労働局に持っていけばあんたは終わりだ」
私はすかさず新人に渾身の地獄突きをくらわせ、窓から放り投げた。
あっぶねー。
大事になるところだった。
でもスマホを処分するのを忘れていたので普通にクビになった。
みんなも気をつけよう!
【喪失感】
早朝。
「こんなもん食えるか!」
がちゃーん。
ちゃぶ台に乗った美味しそうな料理はすべて台無しになった。
特に料理に不満があるわけではない。
料理を作るために他人が費やした時間を無駄にする感覚がたまらないのだ。
「やば、漏れそう」
私はしばらくのあいだ歓喜に打ち震えていたが部屋は静かなままだ。
それも当然。
この部屋には私しかいない。
自分で作った料理を自分でひっくり返しただけだ。
一段落すると私は無言で散らばった料理を片付け始めた。
そろそろ仕事の時間だ。
続きは会社でやろう。
【時を告げる】
突然だが医者に余命1年と宣告された。
ヒェェー。
そんな時友達が言った。
「死ぬ瞬間に持っていたものはあの世に持っていけるらしいよ」
─え?まじで?
私は手早く親戚に借金を繰り返し、さらに闇バイトで稼いで得た合計1億円を体に巻き付けた。
このまま死ねば来世は金持ち確定だ。
私はそのまま車道に飛び出しトラックに突っ込んだ。
ぐしゃあー。これは死んだな。
しかし私の意識が遠のこうとするその時、声がした。
「大丈夫か?今助けるぞ!」
見るとハゲたデブのオッサンが心臓マッサージをしようとしているところだった。
え?何この状況。
当然体に巻いたお金は外されている。
オッサンは私の手を握り言った。
「私がずっとついているぞ!」
やめろハゲ。お前はいらん。
私はそのまま息を引き取った。
─来世
私は異世界で英雄となっていた。
一緒に転生してきたオッサンが勇者だったため、一緒に付いていき魔王を討伐したのだ。
ちなみに私の役割は荷物持ちだ。
危なかった。
来世が中世風の異世界だったので、仮に1億円を持っていたとしても何の役にも立たなかった。
やっぱ世の中、金じゃない。
コネよ。
私は世の真理を理解した。
【不完全な僕】
喫茶店にて。
コーヒーを頼んだ私は机の上でブリッジをしながらコ◯インを嗜んでいた。もちろん服は着ていない。
「お待たせしました」
店員がコーヒーを差し出してきた。
しかし
「ほどこしはいらん!」
なぜか気に入らなかった私はコーヒーを床にぶちまけた。
店員は真っ青になって震えている。ゴミが。
そこに店長がやって来た。
「どうされましたか?」
私はしょうがなく状況を説明した。
「実はそこにいる店員から大麻の匂いがしたんです。僕もよく吸っているので分かります」
話を聞き終えると店長は鬼の形相になり店員を殴り倒した。
「まさかこの店に犯罪者がいたとは。お前は人間のクズだ!」
「まあまあ」
私は擁護した。
「彼も不完全な人間だから。その辺で許してやりなさい」
「なんとお優しい!お客様がそこまでおっしゃるのなら、、」
店員は既に全身を複雑骨折しているがなんとか許されたようだ。
店長は警察に通報し一件落着した。
めでたしめでたし。
ちなみになぜか私も警察に事情をしつこく聞かれたが、私が岸◯総理の親戚だと分かると土下座して非礼を詫びた。
やれやれ。
あと店員は薬物とは関係なかった。
【裏返し】
海辺を歩いていると亀がイジメられていた。
数人の子供が寄ってたかってひっくり返した亀を棒で叩いたり、タバコの火を押し付けたりしている。
「ガキどもが、、、」
私は人当たりがよく非暴力を推奨している人格者だが、守るべきものがいる場合は別だ。
私は走りながらたまたま持っていたダガーナイフを投擲した。
ナイフは芸術的軌道を描きながら突き刺さった。
亀に。
「あっ」
ミスった。
亀「ぎゃあああー。呪ってやるーヴォォー」
亀は苦しみながら息絶えた。
私は真っ青になっている子供たちに優しく語りかけた。
「まーこんなこともある。しゃーない。亀さんも許してくれるさ」
憎まれ役は私だけで十分だ。
私はそれだけ言うとそそくさとその場を後にした。
ちなみに目撃者が多数いたので後日私は捕まり死刑になった。やれやれ。