また抜けてる。洋服が裏返しだ。
先週はパジャマ。
その前はTシャツ。
最近、裏返しで着てることが多い。
さらに、すぐ気がつかない。
鏡見たタイミングだったり、洋服脱ぐときだったり。
こりゃ、面白いネタだよね。
ルンルンで話したら、友達変な顔しちゃってさ。
私、疲れてるんだってさ。
言われると、突っ走ってきた気もする。
でも、私より頑張ってる人もいるんじゃないの?
でもさ、そんなこと言われちゃうと、気にしちゃう。
だから、裏返しで洋服を着なくなるまで、
ゆっくり歩くよ。
ここは狭い。暗い。
空気が淀んでおり、窓を少しで良いから開けてほしいと思う。みんな同じ方向みて気持ち悪い。
しかし、窓は閉まったまま。
鳥のように自由に翔べたらどれほど良いのだろうかと思う。
でも、外は目が開けられないほど明るくて、私を惑わす物に溢れてる。まるで毎日がクリスマスで誕生日でお正月みたい。
臆病者の私は外の世界に馴染めなくてここに戻ってしまうんだろう。
目の前には一枚の紙。
自分が羽ばたく先はどこなのか。
それを自分で決められる日が来るのか。
いつの間にか日が沈み、校庭から音は消えた。
そうか、私は羽ばたく先を知る前に、羽ばたき方を知らないといけないのか。
少しくたびれた鞄を持ち、教室を出た。
いつもより歩くのが軽かった。
朝は晴天だったのに今は土砂降り。
あの時と変わらない。
初めて祖父に会ったのは土砂降りの夏だった。
笑顔が上手くない祖父が僕は怖かった。初めて見る大きな大人。言葉数の少ない人。何を考えてるのかよくわからなかった。
時が経つにつれ、祖父のことがわかった。
不器用な性格。僕のことも他と変わらないぐらい愛してくれたこと。
就職の記念にくれた時計。
なにかあってからじゃ遅いとくれた喪服。
男なんだから、良いもの持っとけとくれた靴や財布。
愛をお金で量るのは間違いだけど、これは僕にとって何よりも重い大切な愛だった。
今日は大事な日だから貰った物を身につける。
あの日と同じ空模様。
最後のお別れだ。
簡単に割れた。
イライラして当ててしまっただけ。
きれいに2つに割れた。
これで良かった。
この鏡は正しいことなんて何一つ映さないのだから。
おもちゃの指輪。電車に乗りながらじっと見る。
よくあるプラスチックのやつ。
傷だらけで、指にもはまらない。一見ただのゴミ。
でも、私にはいつまでも捨てられないもの。
指輪をくれたのは腐れ縁のあいつ。2歳年上。
なーーんにもない田舎にいる年が近い相手だった。
幼い一人っ子の私にはあいつが、憧れで、兄で、初恋だった。
そんなあいつが、突然アメリカに留学した時は本当に恨んだ。
「お迎え、ありがとう。美人になったな?」
そんなことを言いながら彼は私に小さなお土産を渡した。
その箱の中には私の物よりも輝いたものが入ってた。