国崎香太

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7/7/2024, 12:25:34 PM

天の川を隔てた恋人が一年に一度だけ会うことができるとされていたのも今は昔。彦星はとっくにベガの永住権を得て織姫と幸せな家庭を築いていた。織姫のお父さんも、大昔から続く二人の健気な愛に心を打たれて再婚を認めたんだとか。
こないだの夏に旅行に行ったとき、色違いのTシャツを着て仲良く買い物する織姫と彦星を見かけた。1000年単位の大恋愛の末にゴールインした二人は世間の憧れの的になり、次の年からは7月7日に入籍するカップルが続出したらしい。そんなわけでうちの親の結婚記念日も七夕の日だから、毎年7月上旬に家族で宇宙旅行に行くのだ。
今年はどこだろう?私またあのホテルに泊まりたいんだけどなあ。ほらあの劇場があるとこ。

7/4/2024, 2:08:06 PM

(昨日のお題『この道の先に』の分です)
人を襲って無理やり血を吸うよりも理解ある方から提供してもらったほうがお互い気持ちがいいと思い、仲間と献血を始めた。不定期に献血バスを出し、当面生活できそうな量が集まったらその日の活動は終わりだ。善意で血を分けてもらっているが、もちろんただではない。協力してくれた方には日焼け止めなど、お礼の品を渡すようにしている。そのおかげか毎度そこそこの量の血を調達できていた。
しかし今回は違った。バスを停め設営を終えてから何時間か経つが、誰も来る気配がない。何かおかしいという話になり近くの様子を見に出かけた仲間が、慌てて戻って来た。数百メートル先に献血ルームができているというのだ。流行りのアニメとコラボし、協力者にはグッズを配布しているらしいとのことだった。こちらに誰も来なかったのはそのせいだ。しかしそれはあんまりではないか。先にこのあたりで献血をやっていたのはこちらなのに。何より私達の活動には生活がかかっているのだ。
私と彼は抗議しにいった。いや抗議などという物騒なものではない。ただ分かってもらおうとしただけだ。献血ルームの横には、キャラクターの絵が描かれた楽しげなのぼりが立っている。私達が献血に来たのだと思ったスタッフが車から出てきた。私は自分たちが数ヶ月前から近くで献血をやっていること、それは少数種族となった私達吸血鬼が殺人者ではなく真っ当な社会の一員として生きるための知恵であることを説明した。その間スタッフの女は、笑っているような眉をひそめているようなよくわからない顔をしていた。そして言った。あなたと私達じゃ目的が違うと。彼女たちがしているのは一人でも多くの同胞を救うために自らの体の一部を差し出す尊い行為だが、私達は結局自分が生きるために人格を持った他者を食い物にする卑しい捕食者にすぎないらしい。私は思わず女の肩を小突いた。だけのつもりだった。彼女の体は飛んでいった。
恐怖に満ちた顔が私達の目を覚まさせるのに時間はかからなかった。いかにも下等生物らしい蚊の鳴くような声が、忘れていた誇りを思い出させる。捕食者の、そして由緒ある強者の誇りだ。こいつの言う通り、私達は捕食者なのだ。そして人間は被食者である。共存など必要ない。私達に屈しようが屈しまいが、この先人間にできるのは死を待つことのみだからだ。
間の良いことに、日が落ちかけていた。世界の生まれ変わりにふさわしい空だ。気の早い盟友は、女の首に牙を突き立てている。今夜は久しぶりに街へ繰り出すのだ。昔から、吸血鬼の狩場は夜の街だと決まっている。もっとも、人目を忍んで闇に紛れる必要はもうないのだが。

6/27/2024, 11:16:59 AM

ここにはないことだけが確かだった。あれがないとどうしようもない。替えがきくものでもないから、自然と見つかるのを待つしかないだろう。でも明日からどうすれば…インターホンが鳴った。来客の予定はない。スコープを覗くと、服装ですぐに分かった。ドアの前にいるのは昨日の私だ。
家に上げて話を聞く。職場のロッカーにあったのを思い出して、届けに来てくれたとのことだった。
一昨日の私が買ったシュークリームをお供にしばらく談笑したあと、突然の客は帰っていった。
昨日の私が親切な人で良かったけれど、元はと言えばあんな所に置き忘れた彼女のせいだった。

6/27/2024, 9:49:08 AM

鋭かったお前の目元は俺と同じ二重に変わっていた。式のあと俺は同窓会をすっぽかした。