君に会いたくて、連絡しました。
そう綴った言葉を消す。また書く、消す、の繰り返し。
ため息が出る。ペンを持つ手が妙に汗ばんでいる。
君は今何をしている?誰と一緒にいる?
僕は、僕は君に会いたいよ。
もう一度紙に向かう。
苦しくても逃げたくない。だって君は僕にとって特別で大切な存在だから。
手放したくない、失いたくない。
君に会いたくて
厳重に鍵がかかった本をみせてもらった。
明らかに大切なことが書き込まれているような雰囲気だ。
すごく真剣な顔だね、と笑われた。
そんな顔をしていた自分に全く気付かなかった。
逆に考えたら、読んでくださいって表紙に書いてあるようなもんじゃない?これ。と可笑しそうにクスクスと笑い出す。
本当に大切なものは形には残さないよ、他の誰かに知られたら大変だからね、と付け加えた彼は、さらりと本の表紙を指でなぞり、鍵穴に鍵を差し込む。
隠してあった引き出しに一緒に入っていたらしい。
鍵のかかった本はどうやら日記のようだ。
ねぇねぇ君は大切なことは紙に残しておくタイプ?と彼が聞いてくる。さあ、どうだろうか。エメラルドグリーンの瞳を見つめながら考える。
君のように物好きな人がいるかもしれないから、鍵のかかった日記は書かないよ、と答えたら、楽しそうに瞳を細めた。
それは賢明な判断だね。
地面に敷き詰められている落ち葉が、木枯らしで舞い上がる。寒いけど、ちょっと幸運だ。手に持っていたホウキで地面を掃けば、いとも簡単にコンクリートがみえた。
こんな時だけ自然に感謝する。
わたしって都合がいい、な(笑)
日常で美しいと感じることって少ない。
少なくとも私は、日々を惰性的に過ごし
決まった時間に起き、決まった仕事をし、目に移る情報を必要なもの以外みなかったことにする。
いちいち気にしていられないから。
美しいものに触れられていないと思うのは、
自分自身がそうやって感情を殺しているのかもしれない。
歴史的な建造物なんかじゃなく、身近なものに美しさを感じ取れる、そんな感性がほしい。
生きていれば、うまく行かないこと、大変なこと、落ち込むこと、色々あると思う。
でも下を向いていたって、そこには答えなんてないでしょ。
顔を上げて、ほら、笑ってみて。
この世界は素晴らしい。
あなたがいるから。