行きたくない。
けど行かなきゃならない。
私は桜華財閥の一人娘。
周りは
「羨ましい。私もそんな生活してみたい。」とか
「この家に生まれて幸せね。努力しなくてもなんでも手に入るわね〜」とか
「一生チヤホヤされて生きていけるのねぇー」
なんて、勝手なことを言うけど私は普通の家に生まれたかった。
貧乏でも、食べるものがいいものでなくてもいい。
ただ家族みんなで笑って食卓を囲むの。
普通の高校生のように放課後はカフェなんて言って恋バナして、会話に華を咲かせるの。
周りからの視線を気にせずに楽しく外を歩けるの。
想像するだけでも幸せな気分になる。
お嬢様なんて、全然いいことなんてないのに。
小さい頃から、食事のマーナを教えられて。
家族で食べることなんて滅多にない。ただメイドが見てるだけ。
大金持ちのお嬢様学校に通って、帰りの放課後はSPに見守られながら真っ直ぐに家に帰らないといけない。
同級生なんて、自分の家の自慢ばかり。楽しくない。
たまに、周りからの言葉に叫びたくなる。
「変わりたいなら、変わってあげるよ!
わたしは普通に生活したいの!誰か変わってよ!」
って。
実際はそんなこと言えやしないけど。
鏡に映る化粧をして綺麗なドレスに身を包んでいる着飾られた私の姿。
鏡に映る私は笑えるほど酷い表情をしていた。
どこにいても1人でいても息苦しい。
もう全て投げすてたい。
こんな家出てしまいたい。
そう思うけど、すぐに頭の中に浮かぶのはお父様の顔。
「はぁー。」
ため息をつくと、すぐにお手伝いさんが入ってきた。
「麗さま。パーティーのお時間です。」
「分かりました。今行きます。」
今すぐにでも帰りたいと願っている自分の重たい腰を上げて、会場へ向かった。
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「この子がわたくし、桜華 利秀の一人娘、桜華 麗です。これからお世話になると思いますのでよろしくお願いいたします。」
「初めまして。桜華 麗です。
これからよろしくお願いいたします。」
子供の頃に身につけた愛想がいい綺麗な微笑みを浮かべて挨拶をする。
お偉い様方の反応は・・・・・・・上出来か。
「ほぅ。綺麗なお嬢ですねぇ。
ぜひ、うちのバカ息子の嫁にきてほしいぐらいだよ。」
「ふふっ。口がお上手で。」
吐き気がする。
こんなジジイ達に笑顔を浮かべて、ご機嫌を取ってる自分にも。
いやらしい笑みで私を見てくるジジイ達にも
そんな気持ちを表に出すことは許されるわけもなく、言葉とともに取り繕う。
そんなふうに笑顔でいれば、一通りの挨拶は終わる。
少し離れたところでお父様と2人きりになる。
「麗。もっと、話さんか。相手は気に入られれば得するお偉い様だぞ。お前ならできるな?あの時のように私は娘にがっかりはしたくないからな。」
お父様の居丈高な様子に少しだけ恐れを感じ、首を縦にふる。
「はい。お父様のご期待に応えられず申し訳ありません。次はもっと必ず完璧に振る舞います。」
「それでこそ私の娘だ。
今日はもういい。私はまだやることがあるから、麗は会場の中にいなさい。多少はゆっくりしてていい。
でも、桜華財閥の娘の威厳を忘れずにな。
誰かから話しかけられたら完璧な態度で振る舞えよ。
私の娘なんだ。それができるな?」
「はい。承知いたしました。」
お父様は私の頷いたのを確認して、私の元を離れた。
苦しい。
どこにいてもどんな時でも。
休んでていいと言われても、後に続く言葉が気を休ませない。
お父様から出る言葉はいつも決まってる。
「どこにいても、桜華財閥の娘だと言うことを忘れるな。」
「常に完璧でいろ。」
「がっかりしたくない。」
そんな言葉ばかり。
気持ちは分かるんだ。
お父様も、ここまで先代が完璧に作り上げてきた桜華財閥を潰してはいけない。娘の私が少し誤った振る舞いをすることで事が大きく変わることだってある。
だから、お父様も必死になる。
私にも完璧な態度を求める。
一度の失敗は許されない。
小さい頃、小学6年生に一度だけ失敗したことがある。
それは小さく事は済んだけど、お父様にはすごく怒られた。
「私をがっかりさせるな!私の娘なんだから、私が絶対に恥をかくことをするな!
いいか。常に完璧でだ。
泣くな!泣いても何も変わらないし、許されない!
次こそ失敗しないように努力しろ!」
お父様のあんなに怒った顔は見たことがなくて涙が溢れるけど、それさえ許してもらえなかった。
お父様はその日からもっと厳しくなり、稽古やマナーの勉強が寝るまで続いた。
その日から私は知識を頭の中に入れ込み、完璧に振る舞えるように頑張った。
お父様の笑顔はしばらく見ていない。
昔のことを思い出すと頬から笑みが消えそうになるが、必死で取り繕って、端に移動してワインを注ぐ。
すると、急に音が鳴り始めた。
ダンスの時間のようだ。
男女がペアになって踊るらしい。
なら私も踊らなければならない。
そう思って周りを見回すと1人の男性が誘ってきた。
「一生に踊りませんか?」
「もちろん。光栄ですわ。」
笑顔で受け入れて踊り始める。
それからはそれの繰り返しだ。
曲が終わりに近づき、あと1人ぐらいで終わりかなっと思った時、
見る景色が停止した。
周りの踊っている人達はピタリ止まり、動かない。
お父様も動いていなかった。
・・・・・どうなってるの?
不思議すぎる出来事に意味がわからなくなった時
「おねーちゃん。」
声がした。
声の方を向くとそこには、
1人の男の子。
5歳ぐらいの男の子だ。
この大人だらけのパーティーに子供が1人だけいて、その子は動けている。
どう言うことなのだろう?
「びっくりさせてごめんね。おねーちゃん。
ここはね、僕が世界を停止したんだ。
だから、おねーちゃんと僕以外は動かないよ。」
「あなたがしたの?なんで?」
男の子はうーん。と言って笑う。
「だってこのままにしてたらおねーちゃん。壊れちゃうから。だから止めちゃった。今は誰も見てないし、誰もいないから、安心して休んでいいよ?」
壊れちゃう、か。
「おねーちゃんにも休む時間があっていいんだよ。
お嬢様らしくしなくていいの。
ありのままでいていいんだよ。この世界は1時間。
1時間しかあげれないけど、ごめんね。ゆっくり休んで。ご飯もたくさん食べて。なーんにもきにしなくていいよ。」
もう何がなんだかわからないけど、もういいと思った。
「このドレス脱いできていい?」
「いいよ。」
ドレスを脱いで身軽になる。
お腹が空いたなと思って、ご飯をご馳走になる。
「人の目なんて気にしなくていいからね。」
それからは食べ方も気にせずに思い切り食べた。
そして、控え室のベットに横になって好き放題する。
少し羽目を外しすぎかと思ったけど、誰も見てないならいいやってなって、自由に過ごす。
生きてる中で1番楽だったと言ってもおかしくない時間だった。
もうすぐ1時間が経つ。
もうこの時間が終わる。
名残り惜しく思った時、
「楽しめたかな。」
いつの間にか消えていた男の子がまた現れて、そう言ってきた。
「うん。楽しめた。
ありがとう。」
「おねーちゃん。きつい時は休んでもいいんだよ。
例え周りがなんと言おうがおねーちゃんは1人の女の子。
桜華 麗 じゃなくて、普通の女の子の麗でいてもいいんだよ。僕はそっちの方が好きだよ。」
「でもーーーーー「待ってて、もうすぐ迎えにいくから。僕が君を救うから。」
謎の言葉を残して消えた。
それからは普通に世界が動き出した。
なんだったのだろうか。
不思議な男の子。
迎えに行く?ってどう言うことだろう?
パーティーで、男の子のことが頭から離れなかった。
続く?かもです。
静寂に包まれた部屋
静寂に包まれた部屋はいつもに増して色々なことを考えてしまう。
いいことばかりではない。
でも、私はそんな時間が好きだ。
1人ゆっくりと過ごす。
嫌なこともあるけど、やっぱり好きかな。
大事にしたい
「大事にしたいの。今この瞬間を。
生きてる。脆くて弱いこの心臓が動いてくれている最後の時まで。愛紅と愛華とあなたとみんなで笑っていたい。」
妻は弱々しい笑顔でそう言った。
君への想いは今でも出会った頃から変わっていないこの愛しい気持ちが君の願いを叶えたいと言っていた。
だから、
「そうだな。そうしよう。医師にはそう言っておく。」
医師にはあまり動かない方がいいと言われている。
けど、妻は最後の時間を家族とたくさん遊んで、子供達に料理を作ってたくさん笑いたいと言う。
だから俺は妻の願いを叶えるんだ。
「愛してる。ずっと。」
完
空が泣く
「ねぇねぇ!パパ!
明日のうんどうかいはママが晴れにしてくれるよね?
おそらにいるママがきっと雨をふらないようにしてくれるよね?」
明日の幼稚園の運動会のためのお弁当の下ごしらえをしにキッチンに立っている俺に息子は聞いてきた。
1年前、息子がまだ3歳の時
妻は病気で息を引き取った。
妻の香織が亡くなった時は人生で1番悲しかった。
けど、妻は最期まで笑顔で「光信(こうしん)をよろしく。ずっと見守ってるから。2人を愛してる。」と言っていた。
だから光信を立派に妻の分も愛情をたくさん込めて育てていきたいと思っている。
妻が亡くなった時息子には
「ママはお空にいるんだよ。
パパと光信を見守っているんだ。」
とそう言った。
だからママが晴れにしてくれると言う言葉が出たようだ。
「うん。そうだな。ママがきっと晴れにしてくれる。
でもな、光信。ちゃんと部屋を片付けないとママ怒って泣いて、明日晴れにしてくれないかもだぞ?」
「え〜、いやだ!こうしんおかたづけしてくる!」
そう言って部屋に戻っていった。
なあ、香織。光信は立派に育ってるよ。
だから見守っててな。
明日の運動会も晴れになるよな。
光信の頑張りを応援してて?
俺、もっと頑張るから。
心の中でそう言った時
ずっと見守ってるからね。
光信をよろしくね。パパ。
そんな声が聞こえた気がして、弁当をもっと豪華にして光信を喜ばれせてやろうと気合いをいれた。
えんど
君からのLINE
私はシングルマザーで娘を育てて来た。
そんな娘は社会人になり忙しいそうであまり連絡を取れてないし、しばらく会っていない。
寂しいなぁとか、向こうで上手くやれているのかなぁ、とか思っているけど、娘が向こうで精一杯頑張ってるのならば応援したい。
そんな思いがあって無理に帰ってこいとは言えなかった。
ふといつもに増して心配になりLINEを打とうとした時だった。
ピコン
となって見ると娘からだった。
"久しぶり。
ずっと連絡できなくてごめんなさい。
元気にしてますか?
今度の金曜日、帰ってくるから。
その時はまたお母さんのご飯が食べたいです。"
帰ってくるんだ・・・・・・・
急なことにびっくりしたけどそれの何倍も嬉しさが込み上げてくる。
元気にしてるのか体は壊していないのか、
ずっと心配してたから、金曜日に顔を見せにくるようで安心した。
早速、ワクワクする気持ちを抑えきれずにその日はずっとハッピーな気持ちで1日を過ごした。