何でもないフリ
丈夫な体は朝になると
ロボットのように動き出す
己の意志より強く
誰よりも弱い、人間らしい心を抱えて。
裸足のまま
埃を踏んで歩き出す
寝巻きを脱ぎ捨てて、鞄を掴んで
磨き忘れた靴を履いて
気温を感じない外に出る。
無人の部屋を背に
これからするべきことは...
あっけらかんとしよう
澄ました顔で会話をしよう
ほどよく軽口を叩いて
時には甘い言葉を吐いて
相談事は嫌味にならない程度に品よくまとめて
失敗は笑い話にして親近感を得よう
したたかな生き方を
大人になったと勘違いして。
本当は何も取り繕いたくなんかないのにな。
いつからこんなに
口を噤むようになったんだろう?
仲間
類は友を呼ぶから
敢えて離れてみた
膨れ上がった自尊心が
周りを作るなんて
耐えられないから。
手を繋いで
通知はいつも通りの淡白なメッセージ。
慣れた味気なさに、無関心の予兆と小さな恐怖心がじわりと滲んだ。
日を重ねるごとに頭を占めていく不安感が厄介だ。
ただの心配性?
手が震えて止まらない。
寒いからだ。きっとそうだ。
白い息が空に登っては消えていく。
不意に背後で砂利を踏み締める音がした。
「待った?帰ろ」
夕冷えの空気を暖めるような、柔らかい中低音が心地いい。
「うん」
手の震えは、もう無くなっていた。
ありがとう、ごめんね
ありきたりな口上に
不覚にも動揺した
素直に受け取るか
顔も見たくないと跳ね除けるか
礼を言われる筋合いもないのに
少しばかり大人ぶったアンタを
惰性で捨てられない。
部屋の片隅で
四肢を投げ出して、天井を見ていた
捨て損ねたゴミ袋 溜まった洗濯物
分刻みで設定したアラームも
スヌーズのまま止まらない
全て無視して 震える手で
耳を塞いで蹲っていた
こうしている間にも
周りは生き抜いている
社会は動いている
みんな、生きているのに
私だけがゾンビみたいだ
生きてるなんて思えないや
西日が刺してきた
また生き延びてしまった。