水面から顔を出して片想いの相手を見つめる。
あぁ、叶うならあの隣に座りたい。話したい。
相手が一瞬こちらを見た気がして慌てて水中に潜る。
どうせ叶わぬ夢なのだ、夢のまた夢なのだ。
あくる日もあくる日も水面から眺める程度しかできないあの想い人は地上の2足で歩くやつに興味を持ったようで最近は陸の方ばかり見ている。
自分の足は2本ではない。
落ち込んで海底に沈んでいる間に色々あったようで知らぬ間に片想いの相手は2足歩行になり地上で暮らすようになってしまった。
叶わぬ夢は叶う間も与えられず終わった。
(叶わぬ夢)
人魚姫のオマージュ、人魚に恋した海中生物の夢。
「ふふふっここなら見つからないわよ」
そう企んで、小さな隙間に身を隠す。
「もういいかい?」の声と共に、捜し出した音がし始める。
すぐに近くまでその音は近付いて来て、
「見つけた」の声と共に相手が自分にタッチする。
「なんですぐに見つかるの!?」
と相手に聞く。
「君は親指くらい小さくて隙間に隠れやすいけど、花の香りと共に隠れてるからすぐに分かるんだ」
と言う。
花の香り…そうか。
なら次に隠れるのはあそこねと決めながらもう一度かくれんぼをする。
「もういいかい?」の声は隠れた花瓶のすぐ近くでした。
(花の香りと共に)
おやゆび姫のオマージュ、王子様とかくれんぼの様子。小さくて隠れやすくても香りは隠せないです。
何か嫌な予感がする。
むしのしらせというのか、今何かが起きているに違いない。
心がざわめく。
買い物を切り上げて急いで家に戻る。
家のドアが開いている。
心のざわめきが大きくなり周囲の音が聞こえない。
白い粉が床に飛んでいる。
そして残された足跡は犬系の足だ。
おそらくオオカミだろう。
子羊達はどこ?
ざわめきどころじゃない。
(心のざわめき)
7匹の子ヤギのオマージュ、買い物に出た母ヤギ目線。
ボチャン!!と頭上で水になにか落ちた音がした。
ゴポゴポと空気を巻き込みながらそれが落ちてくる。
なんだ?斧か?
鉄で出来た質実剛健の飾りのない斧そのものだ。
ただ、普通に返すのも面白くない。
そういえば、ただの遊びで作った金の斧と銀の斧がどこかにしまってあるはずだ。
入っていそうな箱をいくつか開けるが見つからない。
金の斧君銀の斧君どこだい?とちょっと大きい箱を開けてひっくり返す。あったあった。
金の斧銀の斧を両手に持って湖から浮き上がる。
「うわあぁぁぁぁぁ」
と叫び声が遠ざかる。
湖から出た時に顔についた水で目が開けられないせいで姿が見えない。
かっこ悪いが袖で顔を拭い目を開ける。
誰も居ない。
鉄の斧を落としたであろう君は何処に?
……まぁいいか。
また湖に沈んでいく。
ひっくり返した箱の片付けしなきゃいけない。
(君を探して)
金の斧銀の斧のオマージュ、湖の女神様も大変な様子ですが斧は返してあげて。
そろそろ新しい服が欲しいなと呟いたらすぐに家臣達が仕立て屋を数人連れてきた。
家臣達に、自分が連れてきた仕立て屋が1番だ1番だと言っているが、当の仕立て屋達は御前である手前頭を下げて緊張しているようだ。
「我が欲するは、軽く涼しい服だ」
そう宣告し仕立て屋達に作業を始めさせる。
1人は、極東に伝わる衣装である浴衣なる物を作った。
確かに軽く涼しいが王に相応しい豪勢さは無い。
1人は、頭の良い人には見えない服だと言ってきた。
確かに見えないがデザイン等が不明だ。
1人は、シルクを多用した服を待ってきた。
どう見ても女性物のデザインだ。
最後の1人は、透明な服の一部だと言って1枚の布を出してきた。
この布は知っている。戦士達がフンドシと呼んでいる物だ。
「うむ」
と一言言って立ち上がり宣告する。
「全員不敬罪で打首」
結局軽く涼しい服は手に入らなかった。
(透明)
裸の王様のオマージュ、王様が気に入る軽く涼しい服は見つかるのだろうか?しまむら辺りに売ってない?