朝早くから凍える空気を吸い山道を登っていく。
数ヶ月前から話し合って冬は一緒に山へ行こうと決めていた日にまさかの大雪になるとは思っていなかったが仕方ない。
前を歩いていく相方は寒さに強いのか薄着で見ているこっちが余計寒い気がして、だが、声を出すのも辛いほど寒いので放っておく。
しばらく歩き続け、山小屋を見つけた。
ドアが壊れているが雪と風を凌ぐには問題ない。
小屋の中は案外広く、蜘蛛の巣を払い除け汚れた床に座り休憩を取る。
そして気付く。相方の顔が青く震えている。寒いのだ。
お前、何も無理してその格好で来るこたなかったんじゃないか?とようやく声を出す。
(金)と書かれた腹掛けにふんどしと草履雪駄。
出発前に阿呆かと言ってやれば良かった。
本当は山頂まで行く予定だったが無理はできない。
下山するぞと立ち上がる。
凍え死ぬ前に家まで帰る為に緊急的に相方をおんぶする。一緒に戻るんだと来た道を早足に突き進む。
次からは冬は一緒に山へ行こうなんて絶対言わない。温泉に行く方が良いに決まってる。
(冬は一緒に)
金太郎のオマージュ、熊目線。雪山でもあの格好してる金太郎は阿呆だがそれを止めなかった熊も阿呆だった。
ねぇねぇ、この街って「シープタウン」っていうのになんでシープ、羊が居ないの?
カウンター越しにそう尋ねられた。
注文のココアを出しつつ答える。
昔はここら一帯は羊飼いが多く居て合同で農場を開いていたんだ。その中で1人厄介者がいてな。オオカミが出たって毎日のように叫んでみんなを困らせてたんだ。だが、本当にオオカミが出たことがあってそれで羊が全滅したのさ。その名残だな。まぁとりとめもない話さ。
ふぅん、と話を聞きながらココアを飲む。
そこに男が隣のカウンター席に座って来た。
俺は目が良いんだ。毎日のだって森の中にオオカミが居ることに気付いてたんだ。信じなかったのはお前らだろう?
そう話に加わってきた。さっきまで奥のテーブル席に居た男だ。
話からしてこの男が厄介者の男だったのだろう。
まぁ、今となっちゃ過去のとりとめもない話だがな。とりあえず、会計頼むわ。
そう言って男は去っていった。
その背中にオオカミの刺繍が施された服を見送りながらおかわりのココアを頼んでもうしばらくこの街の雰囲気を楽しむことにしよう。
(とりとめもない話)
オオカミ少年のオマージュ、その後の物語。
飼い犬がここ掘れここ掘れと仕草で伝えてくる。
思い切ってクワをたてるとキンッという音と共に緑色のガスが噴き出した。
犬はキュウキュウ鳴き、間違えちゃったと表情で伝えてくる。
数秒で噴出は収まり、その跡から金属の容器と『新種ウイルス培養中※危険開けるな』と書かれたプレートが出てきた。
先程のガスは容器から漏れだしたものだったらしい。
新種ウイルス危険の文字に恐れをいだき、他の人に逃げるように伝えに町へ向かって駆け出した。
が、それが間違いだった。
ウイルスの噴出の中心に居たのだから、感染していたのだ。
町全体に新種ウイルスが蔓延してしまい、全員が風邪に似た症状を訴え病院へ押し寄せた。
もちろん医者も感染しており診察どころではない。
他の町から対策に来た者たちは、感染者を隔離という形で少数グループに分けて少しずつ対処していくと言った。
が、実際は未知のウイルスを拡散させないように感染者を焼却する事が目的だった。
町から徐々に人の姿が無くなっていき、一方で焼却灰が増えていく。
灰は時折風に煽られ舞っていき、付近の木や花を枯らすのだった。
(風邪)
花咲かじいさんのオマージュ、ここ掘れわんわんからのとんでもない展開。原作は花を咲かすがからす方向で。
空を見上げて雪雲を探すが今日の天気は快晴だ。雲一つない青空に鳥が飛んでいるのが見える。
早く雪が降らないかな?と待っているが、そんな気配は無い。
雪を待つのにも飽きてきた。
一度部屋に戻って温かい飲み物でも飲んでくるかとドアを開ける。冷たい風が部屋に流れ込む。
お湯を沸かし、ちょっと濃い目のラテを淹れる。
簡単な雪だるま柄のラテアートを施して上からパウダーシュガーを振りかける。まるで雪の様に。
窓の外を見つめながらちょっと独り言。
「もう、エルサったらまだ寝てるのかしら。」
その独り言が届いたのか、山の向こう側に少しずつ少し暗い雪雲が浮かびだした。
もうすぐ雪が降る。外に出て雪を待つ。
(雪を待つ)
アナと雪の女王のオマージュ、雪の降る量調整して適度に積もらせてあげてね。
あわてんぼうだと自覚はしているが自分はまだまだ早いこの時期に仕事を行う予定区域へ向かうのが毎年の習慣だ。周りからは早すぎる奴とバカにされる様な声がかかるが気にしたことは無い。
最近は家を照らすイルミネーションも減ったなと、上空7000mを飛行するソリから地上を見下ろし少し寂しそうなため息をついていた。
今やイルミネーションは大きな施設や街路樹ばかりを照らし、ベッドタウンと言われる民家密集地にはところどころ点々とあるだけだ。
ソリの停留地や方角、現在地を調べる目印としていたイルミネーションが少ないせいで迷子になるソリ乗りが増えたと界隈のネットワークで言っていたなと思い出す。
自分の担当する区域はまだイルミネーションが多い方だが、代わりに紛らわしい光源も多く、そこは長年の勘と技術でフォローする。
ソリを前方に引く動力源のトナカイ達の制御を緻密にこなし停留地のイルミネーションへ高度を下げていく。
上空1000mまで降下した所で自分の間違いに気付いた。
この停留地イルミネーションは見誤った。
目の前に広がる空港の滑走路の誘導灯と街路樹のイルミネーションを見間違えた。
もっと昔のように分かりやすいイルミネーションが増えてほしいものだ。
(イルミネーション)
あわてんぼうのサンタクロースのオマージュ、イルミネーションを飾ろうか迷っているアナタ是非照らしてあげて。