熱い口を我慢しつつ屋敷に戻るとさっきの見知らぬ人がリビングで奴の口を覗いたり腕になにかの装置を巻いたりしていた。やはり、医者的存在だったようだ。
オレに気が付いたのか1度診察をやめてこちらに向いた。
初めての顔だね。アタイは怪異専門の魔女のあれよ。アンタはパッと見、ヴァンパイアハンターのようだけど、、、アンタ、口の中火傷してるだろ?コイツのついでだ、薬いるかい?
そう言いながら少しニヤッとした表情をしてまた奴の診察に取り掛かった。
一目見て、何も喋ってないのに口の中の火傷まで見抜かれた。コレは少し警戒した方がいいような気がする。
診察を終えたのか、すぐ作ってやるから待ってな。とキッチンへ入っていき、すぐに何かを切ったりすったりの音とハーブ系の香りが漂い始めた。
奴はやはり微熱どころじゃなくゼェゼェ言いながら机に突っ伏している。
すぐに出来たよ。と小さい鍋と漏斗を持って魔女が戻ってきた。
そして奴を床に仰向けに転がすと漏斗を口にねじ込み、小鍋の中身を一気に注いでいく。奴はもがいている。
魔女子さん特製、『法で認められた愛情しか入っていない薬』だよ、特別にニンニクを入れてやったんだ、ありがたく飲みなっ!
と、無理やり流し込んでいく。飲み込んだのを確認するとこちらに向き直り、
体の再生時に土の微生物まで取り込んだようだね。この薬で微生物はいなくなるからもう大丈夫さ。それとアンタの口にはこの『法で認められた愛情しか入っていない薬』を飲みな。
とお猪口を渡された。ハーブ香がかなりきつい液体だ。覚悟して飲み込む。すると口の熱さは本当に一瞬で消え去り、火傷の違和感も消えた。
よしよしと頷きながら魔女は、奴に1晩寝れば治ってるからねと言ってサッと帰って行った。
全く、とんでもない魔女が居たものだ。まぁ薬の効き目は確かなのだろう。
(愛情)
魔女子さん特製『法で認められた愛情しか入っていない薬』は違法薬物じゃないので安心して下さい。
(お知らせ、このシリーズの連投はこれで一旦終えて童話オマージュを再開します。吸血鬼シリーズは時々投稿します。)
昨日の奴の再生後、奴は風邪をひいた。先日まで首だけで机に放置してしまったし、体が戻った時は全裸状態だったのだから仕方ないのかもしれない。
吸血鬼でも不死でもウイルスには勝てないらしい。
体温計は39.7度を指しているが奴は
こんなも…の…微熱…だ。
と謎の強がりを言っている。
先程奴の使い魔のコウモリが手紙を咥えてどこかへ飛んで行ったが、吸血鬼を診てくれる医者でも居るのだろうか?
オレは、風邪に移らないように喫茶店へと逃げ込んだ。
昨日テイクアウトした物と違い少しも冷めていない「沸騰直前まで熱したコーヒー」を飲みながら表の通りを眺めていると、コウモリと初めて見る誰かが屋敷の方向に向かって行くのが見えた。
一気にコーヒーを飲み干して会計をし、オレも屋敷へ足を向ける。
全く、一気に飲んだせいで口の中が熱くてたまらない。
(微熱)
吸血鬼も風邪はひく。インフル注意
はっとして目を覚ます。
本当に寝てしまっていたようで、暖炉はすっかり消えてしまっていた。
辺りを見回す。昨日屋敷に入ってから何も変わっていない。
横でセーターの塊が2つモゾモゾ動いているくらいで他は止まったままだ。
座っていても仕方ないと思い、そっと屋敷を出る。
清々しく雲一つない空に太陽が照らしているが、夜のうちの放射冷却のせいかピリピリと冷えた空気がまとわりついてきた。寒さを堪えて、この町の喫茶店へ足を進める。
いつもと変わらず接してくれるこの町の住人達に感謝しつつ、喫茶店でテイクアウトを頼む。
「沸騰直前まで熱したコーヒー」と「モーリースペシャル」と名のついたコウモリ専用リンゴバナナオレンジコウロギミックスジュースと「ガーリックが主役のミネストローネ」を買い、屋敷へと戻る。
太陽の下で何か食えば回復するかもしれないと屋敷の庭に元からあった机に買ってきた品を並べ、暖炉前から奴の首とコウモリを連れてくる。
今奴には手が無い。代わりにコウモリがヨロヨロとスプーンを運んでいる。が、このコウモリも疲れているのだろうスプーンを杖のようにしている。そしてふらついた勢いで奴の首にクリーンヒットし、首は机から庭に落ちていった。
仕方なく拾ってやろうと手を伸ばしかけ違和感を覚える。
奴の首の周辺の土が盛り上がっていく。一気に体が再生していく。
流れ出た血肉を敷地内に集めておいたのだ。
と言いながら流石に全裸は寒かったのか屋敷へ引っ込んで行った。
全く、不死というものが怖く感じたよ。
(太陽の下で)
吸血鬼さん体戻って良かったね。
奴の屋敷に着いて真っ先に向かったのは奴の使い魔のコウモリの小屋だ。
だがここには居なかったようで、屋敷の玄関へ向かう。
ドアを開けると黒い影が覆い被さってきた。
自宅での飛んでくるフライパンを思い出す。
が、その影は頭の上に力無く乗っている。コウモリだった。
リビングへ行くと相変わらずテーブルの上に奴の首が置かれている。
周りに皿やスプーンが散らばっているのはこのコウモリが主の世話をした後の痕跡だろう。
首は窓の方に向けられており、自分たちは真後ろに居る状態だ。
死んではないだろうから奴は後回しにするとして、コウモリを頭から下ろす。
そしてカバンから1枚のセーターを出すとコウモリを包むように巻き付けた。
それから暖炉に向かい火をつける。
この前準備したばかりのロッキングチェアにコウモリを移動させ、ようやく奴の顔を見る。
目がガッツリと合った。起きていやがった。
すまんが、ワタシも暖炉のところに連れて行ってくれないか?
そう言ってどうやっているのか、ちょこちょこと回って暖炉の方を向く。
仕方ないので奴の首を持ち上げ暖炉前のサイドテーブルに置いてこちらにもセーターを被せる。
自分もセーターを着込み、もうひとつのロッキングチェアに腰掛ける。
今日はこのまま暖炉とセーターの暖かさに寝てしまいそうだ。
全く、いつになったらこの吸血鬼は回復するんだ。
(セーター)
ちゃんと戻ってきてくれた事に感謝してるんだろうな。
数日で謹慎命令が解けた。
なぜこんなに早く、それに追加処分が増えもせず解けたのかは不明だがありがたいことには変わりない。
妻からのフライパン殴打愛情表現を受けつつ久しぶりに自宅から外に出る。
玄関バルコニーの横に何か居るのが気配で分かった。
横を見ると、コウモリがぶら下がっている。
奴の使い魔のコウモリだ。なぜここに居る!!?
オレの姿を確認すると1枚の紙を落としフラフラと飛んで行った。
落ちていく紙をなんとかキャッチして確認する。
拙い字で『アルジオキナイサムイ』と書いてあった。
コウモリが書いたのだろうか?
奴の事も心配ではあるが…いや、心配してどうする!と思いつつも体はもう動き出していた。
妻のフライパンを掻い潜り、カバンに物を詰め込んでいく。
仕事は仕事だと言い残しオレはまた奴の屋敷へと急ぐ。
カバンから時々落ちていく服や小さな道具に気付かない程に急いで。
(落ちていく)
あの街、宝物だもんね。奴も含めて。