舞踏会の賑やかな雰囲気とは裏腹に、裏方のキッチンシェフやソムリエやメイド達は大忙しだ。
シェフはいくつものフライパンや鍋を行ったり来たり。
ソムリエは、ワイン貯蔵庫と会場の往復で持久走のように止まらない。
メイド達はクッキー、マシュマロ、イチゴジャムをカートにたっぷり乗せてパーティー会場のケータリングコーナーに運び入れる。
カップケーキ、ババロア、プリン。次のカートも急いで運ぶ。
あまりに多く積み上げた使い終えた食器類は洗われもせず、次の料理が載って運ばれて行く。
行ったり来たり走り回ればあちらこちらで衝突事故も起きるもので、ゼリーに赤ワインに焼きたてのハンバーグが空を舞って、柔らかい雨のように降り注いだ。
だがみんな止まらない。後で片付ければいいんだと、次の品を手に持って任された仕事へ散っていく。
(柔らかい雨)
童話によくある舞踏会の裏方達の物語。
ここは、洞窟か?いや、それにしては生暖かい。
ほとんど何も見えない暗闇に1人きりだ。
時々、脈拍に似た音がこだましているがどこから聞こえているのか分からない。
壁を探して手を伸ばし、少しだけ前へ進む。
それはすぐに何かにぶつかった。感触で探る。手すりか、柵のようなものだ。
思い出した。ここは舟の上だ。という事は、光を灯せる道具があったはずだ。
舟の後ろの方に手すりを伝い移動する。道具を入れた箱の感触を探り、ランタンを探し出す。
どうか点いてくれ。
ランタンの開口部から一筋の光が延びた。
良かった、壊れてない。
辺りを照らす。
赤黒い壁が照らされた。
そうか、舟ごと飲み込まれて…
事態を把握すると共に、どうしようもない恐怖に座り込んだ。
落としたランタンの一筋の光は、赤黒い壁のその先の暗闇まで延び、先の見えない空間に消えていった。
(一筋の光)
ピノキオのオマージュ、おじいさん目線
彼女は哀愁を誘う顔をして佇んで居た。
今まで虐められてきた相手3人が処刑される寸前で居るのだからいろいろ思う事があるのだろう。
処刑台の上で今更許しを乞う3人の顔には焦りや後悔が浮かんでいる。
ちょっと待って。
彼女が声を上げた。
処刑人達が動きを止める。
こんなんじゃ私の気持ちも今までの報いも収まらないわ。処刑して楽になるなんて駄目よ。
さっきまでの哀愁を誘う顔から、別の哀愁漂う顔に変わっていた。
処刑は中止して。地下牢に戻しておいて。
そう言って、ガラスの靴音を響かせながら馬車へ戻っていく。
その背中からは哀愁とは全く異なる雰囲気が漂っていた。
(哀愁を誘う)
シンデレラのオマージュ、原作を参考に
待って、私はここに居るのよ!!
鏡に向かって手を伸ばす。
鏡の向こうを意識しながら、同じ行動を何回も何回も何回も繰り返す。
鏡の向こうからの返事は無い。
派手な衣装の自分が鏡に映っている。
待って、私はここに居るのよ!!
声を張り、ハッキリと聞こえるように意識を集中させる。
鏡の中の自分が納得したように頷く。
自分も頷いている。
後ろから声がかかる。
今日の練習はお終いね。衣装ルームに行って着替えて。
部屋にいた何人かの部員と共にドアから隣の部屋に向かう。
ちらっと今まで目の前に立っていた鏡を見る。
鏡の中で自分がこちらに向かって手を伸ばし、何か叫んでいる姿が映っていた。
(鏡の中の自分)
鏡の国のアリスのオマージュ、演劇でアリス役の子の練習風景と不穏なホラー風味
糸車の針が刺さったんだっけ?
唐突に質問をされて、返答に困った顔で相手を見る。
ほら、眠り姫の物語、糸車に呪いをかけてなんかあって眠ったんだよね?
確かにそんな感じの物語だったはずだが、なんで今いきなりこんな話題を?と質問を返す。
いやぁ、眠り姫と真逆でウトウト寝落ちして刺さって起きたからさ。
そう言いつつ下を見るように目線で誘導される。
うっ……
相手の手にはボタンを縫いつけようとしたシャツと縫い針が握られており、だが縫い針の先はシャツではなく手に深々と刺さっていた。
痛い。ってそんな事言われても自分は血を見ると気を失うほどダメなんだ。
フッと視界が暗くなっていく。気を失う合図だ。
眠りにつく前に針に刺さった眠り姫とは似ても似つかないカッコ悪さが胸に残った。
(眠りにつく前に)
眠り姫っぽいけど全く違った物語。