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3/22/2024, 2:07:57 AM

朝起きて、今日はせわしいことがないから、のんびり顔を洗う。
近眼なので鏡に近づいて、たまには自分の顔をよく見てみる。
…!
純白の毛が鼻から一本のぞいている。
白髪?鼻毛の白髪?スゲー!え、いつから生えてんの?
ここまで伸びるまで気づかないなんて、ビックリだ。
鼻の中は黒毛ばかりで居心地悪かったろうに
よくぞ成長したもんだ。一人ぼっちでよく頑張った。
まあ、しかし見つけてしまった以上放置するわけにはいかない。
まだ鼻から出てきてはいないが抜かしてもらおう。
てやっ!!
・・・へっくしょい!

ん?…!
デジャブというやつか。
純白の毛が鼻から一本のぞいている。
いや、まあ二本あったんだな。白鼻毛。
そうか一人ぼっちではなかったのか。
ともに成長してきたんだな。悪い、悪い。
てやっ!!
・・・もうないな。
純白の二本の亡骸を一緒にティッシュに丸めて葬った。

(二人ぼっち)

3/21/2024, 7:10:56 AM

でっかく当たる宝くじを買う。
当選発表までの取らぬ狸の皮算用。
その間の夢を買うなんて人もいる。
何だその負け覚悟の格好つけは。
冗談じゃない、買わなきゃ当たらないから買うんじゃ!!

そして買ったその日から儀式は始まる。
当たれ~当たれ~と念を込める。キエェェェー!!
円を描くように踊りながら祈祷をする。ホニャラヘ~♪
神棚に上げて柏手を打つ。パンパーン!
夢が醒める(当選発表)その日まで
家族を涙目にさせる奇行は続く。

(夢が醒める前に)

3/20/2024, 7:29:08 AM

買い物帰り家に向かう途中、姉から電話がかかってきた。
なんでもないそうだが姉のなんでもないは特に長い。
通りかかった誰もいない公園のベンチに腰を落ち着ける。
いい天気だな…、姉と会話を続けながら青い空を見上げた。

突然ふわりと黒い翼が目の前に舞い降りた。
ベンチから2、3メートル。近い。
いつもいるカラスより若干小ぶり、メスかな?
美しい。艶やかな濡れ羽色に目を奪われた。
しゃべりながら自分を見つめる人間を不思議に思ったのか
カラスはこちらを向いて小首をかしげた。
(くわっ!くゎ・わ・い・い~~~~~!!)
可愛い!あざと可愛い!
吸い寄せられるように立ち上がり、一歩踏み出す。
逃げない。戸惑っているようだが逃げない。
戸惑ってる感が更にあざとい!
胸の高鳴りを抑え更に一歩…
急に無言になった私に姉が何かわめいている、知らん。
だがその目の泳いだほんの一瞬に、軽やかに半回転したカラスは
あわてて青い空へ飛び去ってしまった。
あぁ、行ってしまわれた…
いやはや、久しぶりに魂まで奪われてしまったな。フフッ。

ふいに電話がかかってきた。姉から…いけね、電話切れてた。
今のペナルティ分、更に長い通話が始まった。

(胸が高鳴る)

3/19/2024, 1:34:42 AM

私が成人した時に父が
社会には不条理なことがいくらでもあると教えてくれた。
いちいち心を動かさずに常に冷静を保つように。
あの頃の私は不条理にいちいち
目くじらを立てる人間だったようだ。

父よ、ご安心下され。
いまや心を動かすどころか、お題をみて
不条理の意味を検索してみるほど
呆けた人間になりましたよ。

(不条理)

3/18/2024, 2:12:13 AM

懐かしい小さい頃の話。
兄が家に帰ってきたので遊んでもらおうと
待っていたが、なかなか部屋から出てこない。
そっと部屋を覗きに行ったら部屋にいない。
…?そのときは不思議に思っていたが
なんか別なことに興味がいったのか、すっかり忘れていた。

何年か経って、兄から
「どうしても泣きたくなったら押し入れ貸してやるからな」
と言われた。
そうか、あの時泣いてたのか。
確かに兄の泣いてるとこは見たことなかったな。

いまや私は荷物を詰め込んだあの押し入れに
入り込めるガタイでは無く、兄もこの家を出て久しい。
なので泣きたくなっても…まあ、我慢するか。

(泣かないよ)

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