病室
よく、ドラマなどで窓の外を眺めながら
「あの花が散ったら、私はいなくなる」
みたいなことを言う。
僕は病気で入院していて、不安な日々を過ごしていた。
明日死ぬかもと言う恐怖と隣り合わせで押しつぶされそうな中、ふと外を眺めてその言葉を思い出した。
だが、僕の病室の外にはかっこいいことが言えそうな植物は特に無かった。
ちょっと残念に思いながら、自分の死期を自分以外に委ねるのは嫌なので、よかったと思う気持ちもあった。
どうして何の関係もない、たまたまそこにあっただけの植物に自分の命を預けることができるのか。
僕には到底理解できなそうだった。
もう自分の未来に希望がないから植物に未来を託したのだろうか。
どちらにせよ、植物はいずれ枯れるのだから花が散ったり葉が落ちるのは当たり前なのだから、それによって自分の運命を決めるのはどうかと思う。
少なくとも、僕は最後まであきらめずにいたい。
そんなことを楽しそうに語っていたあいつは、あっけなく逝ってしまった。
俺は、そんなあいつの言葉を聞いていたから、花束などは絶対に最期まで持ってこなかった。
あいつにとってはそんなに重い話じゃ無かったのかもしれないけど、ちょっとでも永く生きてもらえる理由になるなら何でもよかった。
あいつの容体が急変したと聞いた時は驚いた。
昨日見舞いに行ったばかりで、元気な印象しかなかったから驚いた。
到着した時は、まだ生きていた。
でも、俺を待っていたかのように、1時間後にすぐ逝ってしまった。元気なあいつしか記憶になかった俺は、あまりにも突然の死を受け入れられなかった。
何かこいつの残したものはあるかと病室を見回していると花瓶が目に入った。花だった。
花びらが、数枚落ちていた。
何の関係もないかもしれないが、昨日までなかったその花が憎らしく見えた。
帰りに店に寄って、よく似た造花を買った。
これでもう、おとすことはない。
七夕
ゲームのイベントで七夕を思い出した
夜になり、空を見上げる
期待とは違う曇り空
今年は会えたかな
彦星と織姫
友達の思い出
小学生になってからできた友達がいた。
その子と遊んでいる途中、保育園の時からの友達がいた。私はそのこと話し始めた。
さっきまで遊んでいた小学生になってからできた友達が一人残されているのも忘れて。
気づいたら、居なくなっていた。
急いで教室に戻った。
友達は自分の席で泣いていた。
周りの人は何もしていなく、気にも留めていなかった。その子の席へ向かう。
必死になって謝った。
ごめん。一人にして。
次からは絶対にしないから。許して。
ずっと謝っているうちに、いつの間にか友達は泣き止んでいた。そして、いつも通り、笑うことができた。
二人で。
このことがあってから、
真の意味で相手を信用できる仲良しになれたと思う。
一年後
あの日からちょうど一年。
僕は、何か残せただろうか。
余命あと三ヶ月と、医者から言われたのが一年前。
あの時は、本当にこの世の終わりみたいな気分だった。
僕は、荒れに荒れて、毎日を過ごした。
毎日のように朝方まで酒を飲んで、仕事も辞めて。
素面だった時なんてないに等しかった。
随分前にやめたタバコも吸い出した。
久しぶりに吸ったタバコは、絶望の味だった。
あの頃の自分は、
何が楽しくてこんなもの吸っていたのだろう。
でも、その絶望が、その時の僕には妙に心地よかった。
昔の僕も、こういう気分になりたくて吸っていたのだろうか。
余命宣告を受けてから毎日そんな日々を過ごしていた。
特に親しい友人も、恋人も、ましてや親も亡くなってしまった僕のことを心配する人など、
何処にも居なかった。
そんな環境が、ますます僕を汚していった。
三ヶ月後、僕はまだ生きていた。
この日が来る一週間前くらいから、今までと違って急に死が怖くなった。まともに信じてもいなかった神にも、醜く、生を縋るようになった。
そんな僕には、その生は救いだったのかもしれない。
それから急に、僕は働くようになった。
まともに通ってもいなかった病院にも通うようになり、
医者には、もう亡くなっているものだと思われていたらしく、とても驚かれた。
病院で三ヶ月ぶりの検査を終えると、こんな事を聞かされた。
「病気が治ったわけじゃない。今生きているのは、
奇跡以外では説明できない事実だ。いつ死んでもおかしくない。」、と。
せっかくやる気が出てきたのに可哀想だな
と、他人事のような感想が、一番最初に思い浮かんだ。
でもまぁ、いつ死ぬかわからないと言うことは、もしかしたら、死なないかもしれないという事でもある筈だ。
僕はそう自分に言い聞かせ、その後の日々も淡々と過ごした。なるべく楽しみは作らないようにした。
また、生きるのに執着してしまいそうになるから。
日々の小さな幸せを見つけるようにした。
そうして見ると、自分の人生は案外幸せなものだと気づいた。そこそこに恵まれた職場で、普通の日々を過ごしている。
死が隣り合わせなのは、何も僕だけに限らない。
病気、事故、他殺、どれも予測なんてできない。
何も、変わらない。
余命宣告を受けてから、ちょうど一年後。
僕は、病院のベットの上で横になっていた。
今の僕には、恋人もできた。友人も増えた。
余命宣告を受ける前よりも、幸せだったかもしれない。
彼は、僕と手を繋いで微笑んでいる。
こんな僕を受け入れてくれる、優しい人だ。
僕の人生は、余命宣告を受けてから変わった。
輝き出した。
「どうせ死ぬから」
と、少しの失敗も気にならなくなった。
少し、長く生きすぎてしまったかもしれない。
そのせいで、たくさんの心残りが出来てしまった。
でも、寂しく一人逝くよりは、幾分かマシだと思う。
自分も微笑んで、彼の手を握り返す。
そして、静かに目を閉じる。
最後に見るものが、愛する相手でよかった。
背景が病室なのは、気に入らないけど。
街
あいつと出会った街
いい思い出のない街
あいつに話しかけられた学校
いつもより憂鬱な学校
あいつと仲良くなった昼休み
心が明るくなった昼休み
あいつと遊びに行ったゲーセン
話が膨らんだゲーセン
いつもの朝
珍しくあいつのいない朝
先生の顔
いつもとは違う暗い顔
ざわつく胸
いつもと違う
あいつとの別れを知らされた朝の会
呆然とした
話が頭に入ってこない朝の会
大嫌いな朝の会
帰り道
あいつのいない帰り道
重い足取り
あいつのいない道
ひとりぼっちの道
あいつのいない街
物足りない街
歪む視界
ほおを伝う
あいつと出会った街
思い出したくない街