衣擦れの音
汗ばむ身体が火照って
夏の匂いがした
あの夏がなかったら
わたしはいつまでも
籠の中の鳥のごとく
廃人だっただろう
どの道地獄も見て
病気にはなったけど
外の空気が美味しく感じるくらいには
回復した
だから全て良かったと思いたい

暑い暑い暑い
起きたくない
カーテンを開けたら
塵になってしまいそうだ
この地球はおかしい
移住先を考えねばならない

どこまで潜れば気が済むだろう
もう地上に未練はない
青く深く続く海底に
もっともっと吸い込まれて
飲み込まれて死んでしまえば
肉は魚に食べられ
骨になって
地球とひとつになる

わたしたちは海から生まれたから
戻るときも一緒だよ

太陽が照りつけるアスファルトに
焼き付けられて
僕らはジュージュー焼肉のように
食べ頃だ
どうぞ召し上がれ
夏の気配とともに

最後に聞こえた叫び声は
「雌ぎつねめ！」だった

弟とその彼女の立て籠もる部屋に
母が放った数々の暴言の中でも
笑ってしまうほど
身勝手な解釈だと思った
何故なら弟も同罪だからだ

弟が高校に入って堕落するのは
予想通り早かった
母子家庭で福祉の仕事をしていた母は
わたしと弟を養うために
夜も働いていた

夜勤の日に
弟は女の子をよく連れ込んでいた
わたしはヘッドホンをして
パソコンの中に逃げ込んでいた

ある日夜勤の日程がずれたのか
早く帰ってきた母が
弟と彼女のしてきたことを知った
激怒し怒号を吐いた
主に彼女に対して吐いていた

お門違いだよお母さん
あなたの息子はろくでなしだよ
認めなよ

お母さんは都合のいいことはすぐ忘れる人で
20数年経った今では
弟と仲良くやっている
呆れるほど

わたしにはついていけない