誰にも見せまいと
たくさん我慢してきたけど
今回ばかりはうまくいかなかった
「涙まで綺麗」なんて言うから
フロントガラスの外で並ぶ街灯が
余計に煌めいて見えたの
大丈夫だよ、と抱きしめてくれたその腕が
私を見つめる愛おしそうな目が
まるで初恋の時みたいな
そんなぎこちなさで
あの時は君も、さみしかったんだよね
きっといつまでも忘れない
君と私だけの、特別な夜
ー特別な夜ー
緩やかな静けさの中
必死に底めがけて潜っていく私の手に
そっと、何かが触れた
もう少しで掴めるのに
息が、保たない
ごめんね、ごめんなさい
暗くて黒いそこに、不自然な白を見た
最後まで私に優しく触れた、君の指先だった
いきなり光が見える
徐々に聞こえてくる換気扇の音
天井からの水滴が、紅色の頬に冷たく落ちて
私は深く、ため息をついた
頭がガンガンする。
この感覚に、まだ生きていると実感させられるのだ
そうして毎回、絶望する。
のぼせて眩む視界の中、浴槽から立ち上がり
床に転がった瓶を拾って洗面台に置いた
まったく、空瓶ばかり増えて処分に困る
しかたないからこれに花でも飾ろうか
そしたら君はとんでもなく怒るだろうな
まだ寝ぼけた脳みそで
そんなくだらないことを考える
ー海の底ー
繰り返し。
必然の中にしか、偶然は生まれない。
ーこの世界はー
この時期くらいだろうか?
幼い頃、とてもわくわくした思い出がある。
その日はいきなり、仕事帰りのお父さんが
赤いラベルのペットボトルを買ってきた
いいからこのタグを引っ張ってみろ
私は父の言いなりに、勢いよくタグを引っ張ってみる
くしゅっ、となったラベルは
一瞬にして大きなリボンに変わった
その斬新な仕掛けと
一気に華やかになったパッケージに
私は、乙女心が揺さぶられたのだ
ただ、中身はいつもと同じなのに
いつもより何倍も美味しく感じてしまう
あの幼い頃に感じた感動を
今でも思い出しては、懐かしい気持ちになったりする。
ー時を結ぶリボンー
私が初めて心を込めて書いた手紙は
綺麗な顔で眠っているばあちゃんと
一緒に灰になった
病気をしていたから
あまり骨が残らなかったんだって
せっかくなら、もっと良いこと書けばよかったな
って今なら思うけど
いきなり親しい人に手紙を書くなんて、と
なんだか気恥ずかしかったのを覚えているよ
入院を繰り返していたばあちゃんは
私が、似顔絵を書いたら
それを看護師さんに自慢してまわったんだって
別にいいけどさ、、、
ばあちゃん
あの世でいっぱい知り合い作るのはいいけど
頼むから手紙の内容だけは
言いふらしたりしないでくれよ
あと、早くお返事ちょうだいね。
ー秘密の手紙ー