9.
生まれて初めて同級生を好きになった。
今までは、何となくで同級生や年上の人と付き合ってきた。
でも、高校生になって初めて、隣の席のあの人を好きになった。
最初はぎこちないない挨拶から始まった。
それからどんどん話すようになった。
あの人は、絵も下手だし、頭も悪いし、話す時もぎこちない。
でも、好きなところも沢山ある。
話す時必ず目線が合うようにしゃがんでくれるところ。
授業が分からない時、こっそり答えを教えてくれるところ。
手を振ると少し照れくさそうに笑顔で振り返してくれるところ。
目が合うと必ず笑うあの仕草。
数え切れないほど好きになる要素が沢山詰まっている。
今まで、付き合った人には、酷いことばかりされてきた。
だから、好きだという想いを認めたくなかった。
でも、あの人はなぜだか大丈夫な気がする。
あの人の一つ一つが愛おしく思えてしまう。
一緒に幸せになりいと思ってしまう。
私は、生まれて初めて同級生を好きになった。
8.
梅雨は嫌いではない。
雨の匂いは好きだ。
湿っぽい気温も、嫌いではない。
でも、梅雨は、私の彼を殺した。
あの日、雨さえ降らなければ。
天気予報は晴れだった。
あの日、雨のせいで防犯カメラが壊れなければ。
事件の証拠は消えず、犯人も捕まっていたかもしれない。
あの日、雨で車が渋滞しなければ。
私の彼は、助かっていたかもしれない。
梅雨は嫌いではない。
でも、あの日を境に憎いほど大っ嫌いになった。
7.
「お母さんおはよう。」
「・・・・」
「お母さん?」
「・・・・」
昨日の朝は普通に話してたのに。
喧嘩をした訳でも、怒られた訳でもないのに、母は私の言葉には答えず黙っている。
不思議だなと思いながらも食パンをかじりテレビを見る。
『昨夜未明、帰宅途中の女子高校生を刃物で数十箇所刺すという事件が起こりました。少女は昨夜、運ばれた病院先で、死亡が確認されました。警察は殺人事件として捜査しており、犯人は現在も逃走中で・・・』
「物騒だね。」
何度声をかけても母から返事はない。
「私もう時間だし、学校行ってくるね。」
登校中、仲のいい友達も私を無視して通り過ぎる。
声をかけてもこっちを見向きもしない。
不思議な思いで教室に入り席に座った。
「はーい。出席とるぞー。」
「○○、✕✕・・・・・」
(次は私の番だ。)
すると、みんなが一斉に泣き出した。
「○○、帰ってきてよ。」
「なんであいつが殺されなきゃならねんだよ。」
「あ、そっか、朝のニュース。」
私はふと朝のことを思い出す。
「みんな私を無視していたんじゃなくて、見えなかったんだ。」
『私昨日、殺されちゃったんだ。』
6.
ある日、私は彼を殺した。
優しくて、かっこよくて、背が高くて、頭が良くて。
誰からも好かれる完璧なくらい素敵な彼を。
理科準備室で殺した。
その事件以来、生徒はもちろん、教師でさえ立ち入り禁止になった。
犯人は分からない。
証拠もない。
ただ、彼の、彼の身体から溢れ出た血の跡だけが、理科準備室に残っている。
それ以外は何も残っていない。
私のものだと確信がつくものは、何ひとつ残していない。
完全犯罪だ。
誰も知ろうとしない、探そうとしない、だから犯人も捕まらない。
私は彼を愛していた。
ただ、愛し方が違ったのか?
なぜ私は彼を殺さなければならなかったのか。
なぜ彼は私を求めたのか。
何度考えても理由が分からない。
目を瞑ると彼を殺した時の光景が瞼の裏に浮かぶ。
温かかった、彼の身体から溢れ出る血は。
美しかった。
最高だった、純粋で無垢な彼を自らの手で殺めることができようとは。
私は今でもあの感覚が忘れられない。
あの温かさを、あの最高の感覚を、もう一度。
5.
私の生きる意味。
ふと考えた時真っ先に思い浮かんだのは君だった。
「生きる意味がないなら俺のために生きてよ。」
初めて交わした言葉。
嬉しかった。
誰のために生きるか、なんのために生きるか。
人はそれぞれ想いがあり、信念があり、ありがたさを感じているから生きている。
私にはそれがない。
死にかけていた私に初めて生きる意味を教えてくれた彼。
今では生きる糧になり、かけがえのない存在になった。
彼がいなければ私は今ここにいない。
彼の誠実さが、彼の偉大さが、彼の優しさが、
全てが大好きで、愛おしくて。
彼は私を愛してくれる。
どんな私も全てを愛してくれる。
それだけで、この世界に生まれてよかったと、心から思えるようになった。