あの日、君がいなくなった。
僕の恋した可愛らしい君。何人もの男に言い寄られるほど美しく可憐な君。
街に出掛ければ必ず声をかけられる。
長く揺れる金髪に、頬に輝く星の様なそばかす。
ラプンツェルの様に美しい容姿と明るい性格。
そんな君はあの日、君に狂愛していた男に殺された。
自分だけのものにしたい。そう思って殺したらしい。
美しさとは、時に人を狂わせてしまうものという事をその時初めて知った。
話したことすらなかった。
その美しさに息を呑んで、遠くから見ているだけだった僕は君の死を哀しんでも良いのだろうか。
あぁ、僕には、何ができたんだろう。
1人の話した事もない人間が居なくなった。
それだけのはずなのに、この街は見知らぬ街へと変わっていた。
君と初めてのお家デート。
雨で無言が目立つ。
そんなドキドキ感が心を落ち着かせない。
外から遠雷の音が聞こえる。
「きゃっ!」なんて女の子らしい声を出して君の袖を軽く掴むあざとい仕草。
本当は雷なんて怖くない。雷を怖がる友達を鼻で笑った事もあるくらい。
でも、君の前では可愛くいたい。
君の前にいる私は全部私じゃない。顔も髪も、服装も部屋も声の高さまでも嘘だ。
不細工な顔をメイクで隠す。癖っ毛の髪をアイロンでストレートにする。服と部屋は君好みの可愛らしい雰囲気で。低い声はワントーン上げる。
君といられるならいくつも嘘をつくよ。
まだ遠雷が鳴ってる。小さい音でも怖がるふり。
君の赤く染まる頬を見逃さない。
もっと、もっと、君を依存させたい。
絶対、逃さない。
君の瞳の色はミッドナイトブルーだね。
そうほろ酔いの君に言うとポヤポヤとした顔で「どんな色?」と尋ねられた。
日本名で言うと濃紺になるのだろうか。真夜中の星もないような暗い色。
ハイライトもなく、吸い込まれそうになる君の瞳にぴったりの名前だ。
希望を失ってしまったような、それでも誰かを静かに受け入れてくれる優しさを持っている色。
君の瞳に星が輝くのはいつなんだろう。
まあ、僕には関係ない。体だけ、一夜だけの関係。
君とお酒を飲んでも、ミッドナイトブルーの空と君の瞳にまだ星はない。
ロマンチックにはなれない一夜の関係。
君にいつか星をくれる人が現れますように。
そう唇を落とし、ベットに2人で身を委ねた。
片思いのまま終わった私の恋。
好き過ぎて苦しいほどにあの人が大好きだった。
クラスではあまり目立たないメガネのあの人。でもね、メガネの奥に見える切長な綺麗な目に毎日見惚れていたのを覚えている。
結局卒業まで想いを伝えられず終わってしまった。
いや、伝えようとはしたんだ。だけど、卒業式後に見た彼の横顔、綺麗な目から流れた涙に言葉を飲み込んでしまった。
後悔していない。と言えば嘘になるけど、なぜだか胸が高鳴っていた。
あの人が好きだから。
今も次の恋に進めないほど好きなのが少しだけ苦しい。
けど、きっと、私はあの人のことを忘れられない。
なぜ泣くの?
無邪気なあなたは私にそう言った。
悲しいの?どこか痛いの?
震えている今にも泣きそうな声で心配してくれた。
「大丈夫だよ。」笑ってそう答えられたら良かったのに。
出てきたのはそんな言葉じゃなかった。
「アンタのせいよ!!」
醜い私は、あなたを傷つける言葉を放つ。
あなたは悪くないのに、ごめんなさいって謝った。
違う、違うの。ごめんなさい。私が悪いの。
今更どうしようもないのに、小さなあなたに縋ってね。こんな醜い大人にはならないでね。
どんどん溢れて止まらない涙が邪魔だった。
そしたらあなたはまた尋ねたね。なぜ泣くの?
もう疲れたから。
育児に疲れた私には、どうすることもできなかった。
ごめんね。ダメな母親で。