怪々夢

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1/29/2024, 11:47:57 AM

街へ

 
 俺は魔王軍の四天王ガルバスの1人息子チャイガス。人間の街ポワニールへ向かっている所だ。人間達が俺の姿を見たら悲鳴を上げるだろうな。ライオンの顔に前に突き出た角が2本。腕はゴリラ、足はカンガルー。人間からはそんな風に見えるのではないか?相手を威圧するために発達したこの体躯が故、人間を恐怖に落とし入れないかが不安だ。しかしどうしてもポワニールに行かなければならない。そして魔王軍と人間側の戦いを止めるのだ。
 魔王軍はいま、ポワニールの街に作られたポワニール砦に向けて進軍中だ。総大将は我が父ガルバス。総勢1,000体のモンスターを率いている。対する砦の守備隊は1,000から2,000人で数の上では対等だろう。ただし個の力ではモンスターは人間の力を凌駕する。魔王軍の勝利を疑う者はいないだろう。しかし私たち親子は違う。魔王軍は敗れるだろう。そして父は敗戦の責任を取らされ厳罰。魔王様の性格を考えると死罪は免れないだろう。
 
 魔王軍が敗れる理由とは?
その一、モチベーションが低い。
魔王と聞いてどんな印象を持つだろうか?圧倒的な力と恐怖でモンスターを縛り、一糸乱れぬ軍団を率いる支配者?勿論、魔王様の力は圧倒的だ。街1つ滅すくらい訳ないだろう。だがモンスターは邪な生き物だ。人の命令を黙って聞くようないい子ちゃんはいない。モンスターが魔王軍に加わっているのは、みんなが魔王様に従ってるからただなんとなく、程度のことだ。つまり魔王軍は脆弱な命令系統の下に成り立っているのだ。
 そのニ、我慢強くない。モンスターは怠惰な生き物だ。
弱い者いじめは好きだが、痛い思いをしてまで戦いに身を投じる者などいない。戦いが始まって20分もすれば(砦の防御力があれば粘れるだろう。)戦線を離脱するモンスターが増えていくはずた。
 その参、作戦がない。モンスターは利己的な生き物だ。協力して物事にあたると言うことがない。故に作戦行動など取レルはずがないのだ。これらの理由から魔王軍の敗戦は濃厚だ。砦を守るのは英雄ヘルムルト。戦場で見かけたことがあるが手強い相手だ。

 魔王軍の弱さについて語ってしまったが、交渉の席でその様なことを言うつもりはない。むしろモンスターが本気を出せば砦などひとたまりがないと言うことを強調しよう。まぁ、実際本気を出せばモンスターは強い。本気を出せば。
 俺が人間側に交渉したいのは停戦し、安全を保証される土地を提供してくれることだ。その土地を守るためならモンスター達は魔王軍と戦うことも厭わない。それは人間側にもメリットだろう。つまり、モンスターの中に人間に協力的な集団と敵対的な集団を作るのだ。なぜモンスターは人間を襲うのか?それは俺にも分からない。俺自身、人間を食べたことはあるが特別美味しいとは思わなかった。ケモノの肉の方が美味いくらいだ。思い当たるのはモンスターのプライドの高さだ。偉そうに正義を掲げ、そのくせ人間以外に残虐な行為を行う。そんな人間が恐怖におののき悲鳴をあげる様はモンスターの自尊心を満足させるかもしれない。しかし人間は執念深く、モンスターが滅びるまで戦おうとする。人間の怒りを買って痛い目を見たモンスターのどれほど多いことか。きっとモンスターの中にもただの自己満足のためにリスクを犯したくないと考える者はいるはずだ。そいつらを集めて第3勢力を作る。それが俺の目的だ。
 
 きっと上手くいく。大事なのは距離感だ。魔王軍と人間勢力の間を行ったり来たり、どちらにも敵対せず、どちらにも味方をせず。ただし、それもこれも交渉の機会が得られるかどうかにかかってくる。
 もちろん俺も馬鹿ではない。モンスターの中でも猛々しい見た目の俺が、いきなり人間の街に現れたら話を聞く間もなく襲われるだろう。
 前もって、ヘルムルト将軍には俺の望みを書状にしたため送っている。俺には人間というものがよく分からないが、書状を読んでくれているだろうか?読んだとして、会談に応じてくれるだろうか?無理だ。何度そう思ったか。しかし、もう引き返せない。もうポワニールの街は目の前だ。ここまでがむしゃらに走ってきたが、ひどく足が重い。魔王軍を抜けた時に追手にやられた足の傷が痛む。少々血を流し過ぎたようだ。意識が朦朧としてくる。ちょっと気を抜いた際に木の根に足を取られて派手に転倒してしまった。
 なんとか立ちあがろうとするが足に力が入らない。あと少し、あと少しでポワニールの街だと言うのに。俺は這いつくばって少しずつ少しずつ街へ向かった。まだか?まだ着かないか?ふと、街の温もりが伝わってくる気がした。

「チャイガス殿ですね。私はヘルムルトと言うものです。ようこそポワニールの街へいらっしゃました。」

街へ、人間の街へ来て本当に良かった。



1/28/2024, 4:17:08 AM

優しさ
私の名前はショージン。魔王サタン様のご子息、コタン様にお仕えする使用人です。コタン様は若干5歳にして魔道を極め、悪のエネルギーを最大限蓄積できた時、人間界を半壊させ得るだけの力を有します。そんなコタン様ですが、人間どもを恐怖に貶めるため、人間界に潜伏し弱点を探るという極秘任務に当たっておられるのです。私の役目は出来るだけコタン様が仕事がしやすい様にサポートすること。縁の下の力持ち、優秀なる黒子に徹するべく本日もコタン様に付き従っているのでした。

「ショージンは優しさと言うものを知っているか?」

「人間どもが持っている感情ですね。」

「そうだ。なぜ人間が優しさを持っているか分かるか?
人間は弱いから周りと協力しなくては生きていけない。集団で上手くやっていくコツは周りに媚び諂うことなのだ。そうして生まれた感情が優しさだ。俺はこの優しさを逆手に取って、人間を操り、絶望の淵に叩き込んでやろうと思っているのだ。」

「さすがは坊っちゃま、慧眼であらせられます。」

私とコタン様は山手線に乗り日暮里から池袋に向かうとこらでした。

「おい、ショージン、この電車という乗り物は中々に便利だな。」

「左様でございますな、坊っちゃま。」

「人間の技術者をさらって魔界にも作るとしよう。」

「さすがは坊っちゃま、慧眼であらせられます。」

「時にショージンよ、このシルバーシートは何故赤いのにシルバーと言うのだ?」

「シルバーと言うのは、高齢者を指す言葉でしてこの座席は高齢者や障がいのある方が優先で座れる席なのです。」

「何?ここは高齢者優先席なのか?では、そこのご老人に席を譲らねば。」

そう言うとコタン様は席を立ち、老婆に席を譲った。

「ああ、ありがとうね。小さいのに優しくて良い子ねぇ。」

老婆はペコリと会釈すると、優先席に腰を掛けた。

「おい、ショージン、この老人は今なんと言った?」

「坊っちゃまに対して優しいとおっしゃいましたな。」

「どう言うことだ?ただ私は当たり前のことをしただけなのに。」

「最近は、老人に席を譲る若者は少ないようですな。」

「この俺が優しいだと?なんか気持ちが悪くなってきた。ショージン背中をさすってくれ。」

コタン様の欠点は悪魔にしては人が良すぎるところです。
ですが、使用人にも対等に接してくれるコタン様を、私は命をかけて守り切ると神に誓っているのでした。