その秘密は誰にも言えない。
本当に?
言えば自分の破滅に繋がるから、言わないだけじゃないかな?
誰だって自分が可愛いもの。
わざわざ誰かに破滅の鍵を預けるほど、馬鹿じゃないでしょ。
小さな部屋だ。ここには私しかいない。
本もない。テレビもない。食料さえもない。
食料は隣の部屋だからないのは当たり前だ。
とにかく、この部屋には何もない。ミニマリストと言われれば納得するくらいには。
そんな何もない部屋に、私だけがいる。
私だけが、存在する。
この部屋の中、この世界だけは、私だけのものなのだ。
私という存在が許される唯一の場所だ。
外の世界は、私以外のものがたくさんいる。
私はそれに耐えられない。
外の世界では、私は息が出来ない。
他人の目が怖い。
他人が吐く言葉が恐ろしい。
他人を気遣う事ができない。
他人を傷つける言葉を吐いてしまう。
口を塞ごうとして息を止めてしまう。
誰の言葉も聞きたくないから、距離をとってしまう。
向けられる視線は痛いから、見ないように目を逸らす。
居場所なんてどこにもない。
さまようことにも疲れてしまった。
だからこの狭い部屋だけが、私の唯一の場所。
私が私で有ることを赦される、唯一の場所なのだ。
ここでようやく、私は息が出来る。
やっとまともに息が出来た。
失恋。
恋をしたことのない自分には無縁の言葉だ。
そう思っていたかった。
そう言って、いたかった。
なんで今さらになって誰かを好きになってしまったのか。
そして、この恋は叶わないのだと、
なんで今さら、知ってしまったのか。
くそったれ。
正しくあれと説くと、誰かを追い詰めることになる。
正しく生きようとすると、自分を追い詰めることになる。
正しく感情を吐くと、誰かを不快にさせてしまうことがある。
正しく立ち振る舞おうとして、馬鹿を見た。
非条理で、不真面目な、嘘も誤魔化しもある世界で、
ただひたすら、正直に生きていくのは、
難しすぎる。