引越しの前日。
悲しげに海辺に座る私と、
隣で何も言わず海を眺める私の好きな人。
キミともう会えない、話せない。
だったら今してやった方が後悔も残らず
君のもとから離れられるのだろうか。
そんなことを考えてたら、いつの間にか体が動いて
さよならを言う前に、言ってしまう前に。
「……ねぇ」
私はキミに口付けた。
「…さよなら」
またひとつ、私の胸に傷が増える。
『さよならを言う前に』
鏡に映った自分の顔が嫌い。
目、鼻、眉、輪郭、口、全部がコンプレックス。
どれだけ可愛くなろうとしても
心が満たされない。
マスクをつけて、前髪を伸ばして。
できる限り顔が見えないように
自分を保つ。
いつになったら自分は輝ける?
可愛い人たちみたいに、私だって、キラキラ輝きたい。
「自信を持って!女の子はみんなかわいいから!」
そんなわけ、ねぇだろ。
『鏡』
帰りのホームルームが終わり、直ぐに音楽室へ向かった。
音楽室には、同い年くらいなひとりの少女。
彼女の姿は私しか見えていない。
彼女は数年前に亡くなっているから。
どういう訳かは知らないが、成仏出来ないのか
音楽室でずっとピアノを見つめている。
「…今日も弾かないの?」
そう聞くと、彼女は首を横に振った。
胸が、バクバクと破裂しそうに鼓動した。
ゆっくりと微かに透き通った指が鍵盤に触れる。
静かな音楽室にぽーんと音が響き渡った。
「…もっと弾いてよ、」
次々と音色が音楽室によく響く。
悲しくて、切なくて、でもどこか強い気持ちがあるこの音色。
何かを訴えてくるような、そんなメロディー。
君の奏でる音楽を、私は永遠と聴いていたい。
彼女が成仏したってこの音をひとつも忘れたくない。
どんどん美しく透き通っていく彼女を見つめながら、
そんなわがままを私は思い続けた。
きっと私は、明日も音楽室に来るだろう。
君の奏でる音楽を忘れないために。
『君の奏でる音楽』
平日の朝。
今日も仕事があるくせに、
連絡もせず始発の電車に乗った。
ただつらいことから逃げたくて
仕事にもう触れなくていいのならば、
どこへだって行きたくなった。
電車に乗らず飛び降りれば良かったのではないか。
そうすれば、私たち人間なんか直ぐに死ねる。
会社に行かなくたって済む。
何も損なんかない。
私のクソな人生やめてしまおう。
最期に
今日、たくさん色んなところに行こう
人にやさしくするのをやめよう
偽善者だった私をさらけ出そう。
今日の電車が終点に着き、また明日。
私の人生も、終点を迎える。
『終点』
上手くいかなくたっていい。
まわりは結果が全てというけれど、
私は途中経過を褒めてあげたい。
私が褒められたい、から。
『上手くいかなくたっていい』