帰りのホームルームが終わり、直ぐに音楽室へ向かった。
音楽室には、同い年くらいなひとりの少女。
彼女の姿は私しか見えていない。
彼女は数年前に亡くなっているから。
どういう訳かは知らないが、成仏出来ないのか
音楽室でずっとピアノを見つめている。
「…今日も弾かないの?」
そう聞くと、彼女は首を横に振った。
胸が、バクバクと破裂しそうに鼓動した。
ゆっくりと微かに透き通った指が鍵盤に触れる。
静かな音楽室にぽーんと音が響き渡った。
「…もっと弾いてよ、」
次々と音色が音楽室によく響く。
悲しくて、切なくて、でもどこか強い気持ちがあるこの音色。
何かを訴えてくるような、そんなメロディー。
君の奏でる音楽を、私は永遠と聴いていたい。
彼女が成仏したってこの音をひとつも忘れたくない。
どんどん美しく透き通っていく彼女を見つめながら、
そんなわがままを私は思い続けた。
きっと私は、明日も音楽室に来るだろう。
君の奏でる音楽を忘れないために。
『君の奏でる音楽』
8/12/2023, 11:36:30 AM