『今日は、関東地方はところにより雨でしょう』
テレビでお天気お姉さんが言っていた。最悪。今日バイトなのに。バイト先までは徒歩10分。そこまで傘を差して歩かなければならない。雨は寒いし濡れるし大嫌い。でも雨だからって理由じゃあバイトは休めない。それに親が送ってくれる訳でもないし。親からの私への当たりは他の姉妹にするより強く、「お姉ちゃんはこうじゃなかった」、「あんたお姉ちゃんでしょ」ずっとこんな事ばかり言われてストレスが溜まっている。バイト先まで送って欲しい。これを言うだけで文句が来る。
そんなことを思いながら家を出た。空を見ると暗く分厚い雲があって、今の自分みたいだと思った。そんなら雨は私のくらい気持ちを流してくれるシャワーかもしれない。傘をくらい気持ちに見立てると、だんだん気分が晴れていく。
今日は雨だ。雨は嫌いだった。でも気分の晴れるこんな雨は嫌いじゃない。むしろ好きかもしれない。
#ところにより雨
私には彼氏がいる。1週間前に私から告白してOKを貰った。ずっと好きだった憧れの存在で、でも、別に特別かっこいいとか、頭がいいとか、運動神経抜群とか、そういうのじゃない。みんなが憧れるようなすごい人じゃないけど、私にとってはそんな人よりすごい人で、ヒーローだ。
私は今高校1年生で、その人と出会ったのは入学式の時。クラスでの自己紹介が終わって、フリータイムになった時、周りの人達は楽しそうに話してて、私もその中に入りたかったけど恥ずかしくて、断られるのが怖くてひとりで席に座ってたら話しかけてくれて、「僕もこういうの上手に輪に入れないから仲間だね」って笑顔で自分の話してたところに混ぜてくれて、すごく嬉しかった!ひとりで寂しくて怖い暗いところから引き上げてもらったみたいに救われた。その時から少しずつ惹かれていった。その後も色々なことで助けてくれたり、手伝ってくれたり、仲良くしてくれた。
1週間前の放課後彼と話してて好きな子について彼に聞かれた。恥ずかしかったし、断られるのが怖かったけど、頑張って「私の好きな人は貴方なんです。」って言ったら「嬉しい。ありがとう。僕も君のことが好きだったんだ。」って言ってくれた。嬉しかった!その時に付き合い始めた。
貴方は私にとって彼氏という特別な人で、ヒーロー。
#特別な存在
みんなみんな私の外ズラに騙されてよって来てほんとにバカみたい…こっちがどんな思いでみんなにいい顔してヘラヘラ笑って嫌なことも受け流してるのか知らないでさ。これで少しでも周りから外れたら居なくなるくせに。
みんなの理想を叶えようとして、頑張って、ニコニコ笑顔を作りながら自分の趣味じゃなくても流行りに合わせて、みんなに合わせて、服も、髪型も、喋り方だって、別人みたいに作って、それで周りに人がいるなら、独りぼっちじゃないのなら、それでいいはずだったんだ。
今日、私はみんなに見せてるのが作り物だって気づかれた。君が初めてだよ。親ですら気づかない本当の私に君は気づいて手を差し伸べてくれた。嬉しかった!それが君の「外ズラ」でもいいって思った。例え外ズラだったとしても、私は君に救われたから。
外ズラでもいいと思った私はきっとずっとバカにしてたみんなと同じだ。みんなもこういう気持ちなのかな?それなら余計にバカみたいだ。
#バカみたい
周りは僕を否定しかしない。みんな僕は間違ってるって僕は出来損ないの失敗作だって家族だってそう言う。そんな人ばかりのこの世界で、たった一人、僕を否定しないで認めてくれる人がいる。君は、君だけは、僕は間違ってなんかいないって、僕は出来損ないじゃないし、失敗作でもないって言ってくれる。だったら僕はこの世界に、君と僕だけいればいいと、そう思ってしまう。
これを君に言ったら、初めて僕は君に否定された。それは間違いだって、僕を認めてくれる人は他にもいるはずだって、二人ぼっちはきっと辛いよって、君は僕にそう言ったんだ。君の言う通りかもしれない。でも、僕はやっぱりこの世界には僕と君の二人でいいって思うよ。だから、星に願ってしまった。叶うはずないと思っていたから。なのに、叶ってしまった。
今、この世界には、君と僕の二人だけ。二人ぼっちになっちゃった。確かに君の言った通り寂しいね。でも、後悔はしてないよ。これからは仲良く二人で生きていこうね。
#二人ぼっち
昔からよく見る夢がある。知らない街で、知らない人に手を引かれて、綺麗なお屋敷に行く夢。とても綺麗な家で、行ったことなんてもちろん無いのに何故か懐かしくて泣いてしまう夢。時代はその屋敷で、聞いてみたら明治だと言う。教えてくれたのはその屋敷のご主人で、私はどうやらそこの養子となるらしい。それから少し楽しく明るい場面が続くのだが、少しすると一気に変わる。
場面が変わった。綺麗なお屋敷はあちこち血で汚れている。そして、そこら中に使用人が死んでいる。その後ご主人が殺され、奥様が殺され、義姉が殺され、最後に私が殺される。皆私を庇って死ぬ。
目が覚める。目元と枕が涙で濡れている。いつもそう。何度同じ夢を見ても何度同じ言葉を交わしても、何度守ろうとしても、逃げようとしても、逃がそうとしても、事件を防ごうと街に出て人脈を作っても、失敗失敗失敗。でも、今日は少し違った。犯人を見た。覚えていなくちゃ。次こそみんなを守るために。でも、恐らく次は無い。警邏隊が来て犯人を捕まえてた。死ぬ直前に見たんだ。これで終わり。寂しいな。そう思ったら、どこからか声が聞こえた。お屋敷の人たちの声。「ありがとう。」とか「気にしないで。」とか「元気でね」とか色々。ここは現代令和の日本。あの人たちはここには居ない。それでもきっと私の心に居続けてくれる。きっと私を見守ってくれる。そんな気がした。