"勝ち負けなんて"
勝ち負けなんてこだわりは無かったけど、結果で一喜一憂する貴女を眺めるのは面白かった。
囲碁、将棋、チェス。
花札、ポーカー、ブラックジャック。
ポーカーフェイスを装っているつもりでも、どうしようもなく分かりやすいんだよなぁ。最初にゲームを教えてくれた、イカサマ・番外戦術何でもありの連中とは比べ物にならない。
ブラフ無しに運と勘だけで勝負に臨んでくるから、素直だなぁと毎回ほっこりしていた。
もう一度だ、と。
貴女の悔しがる顔が見たくて、ゲームの初回は全力で勝ちに行った。
徐々に涙目になってきたら気付かれないように勝ちを譲って、貴女が嬉しそうに笑う姿を鑑賞していた。
貴女とのゲームでは、勝っても負けても僕には得しかなかった。
"まだ続く物語"
手にしていた幸福の全てが死んでしまっても、物語はまだ終わってくれない。
後に続くのは果てしなく長い、長すぎるエピローグだ。
ここが僕自身の選択の終着点なのだろう。
もはや多くは望むまい。
せめて、思い出だけをこの身に抱いて穏やかな終焉を迎えられますように。
"渡り鳥"
根無草の旅烏。
旅から旅への渡り鳥。
Cloud-cuckoo land の住人。
そういった人物は得てして身の内に興味深い物語を宿している。
"これで最後"
これで最後と決めてはいても
ページを繰る手が止まらない
ついつい進む、深夜の読書。
"君の名前を呼んだ日"
"ねぇ、知ってる?
人の名前って勝手に呼んじゃいけないんだよ。
特に下の名前は。
ちゃんと本人にそう呼んでいいか許可を取らなくちゃいけないんだ "
小学生の頃、下の名前で呼ばれている子がいた。
周りの人につられて同じように呼んだとき、その子の一番の友達だという人に注意された。
"ちゃんとそう呼んでいいか聞いた?"と。
確かに、祖父母が近所の子供さんを話題にする時は、"〇〇のせがれが〜"とか"××の娘さんは〜"とか言っていた。
教師も生徒を名字で呼ぶし、考えてみれば今まで個人名で誰かに呼ばれたことって殆ど無い。
なら、そういうものなんだろうと納得した。
何でそんな他人行儀な呼び方をしているのかと貴女に聞かれ、経緯を話したら爆笑されたっけ。
その後、何事か考え込んでから、
"その子の言っていたことは正しい。名前を呼ぶ時は許可を取らなくちゃダメだ。愛称もね。
ちなみにわたしのことは名前で呼んでいいからね"
と貴女はにんまり笑った。
実にいい笑顔だった。