"元気かな"
"元気かな"と聞かれたら"元気です"と返すし、
"大丈夫かな"と問われたら"大丈夫です"と答えてしまう。話し甲斐のない奴だと自分でも思う。
だって、元気じゃない、大丈夫じゃないと言っても何にもならないじゃん。
具体的な解決策を提示される訳でもあるまいし、
下手な同情なら時間の無駄だからいらない。
体裁上必要な事なのかもしれないけど、いちいち顔色を窺われるのは正直面倒だと思ってしまう。
"遠い約束"
大抵の場合、約束は一方的に破られる。
仕方無いね。だって僕に価値なんて無いんだから。
守らなければならないもの。
壊してはいけないもの。
大切だと定義付けたのは、そちらだったはずなのにね。
ねぇ、どうして僕がそれでも君を尊重すると思ったの?
なんで僕が、僕をいらないというモノを慮らないといけないんだろうか。
やっぱり他人が考えることはよく分からないや。
"フラワー"
語尾にerがついていると、flower(フラワー、花)がflow+erみたいに読めてしまう不思議。
flow(流れる)+er(〜する人)だと、流浪の流離人みたいでなんとなく格好良いよな。
流れる人は花になる。流れた先で花を咲かせるのか、それとも斃れて養分になるのか。
まあ実際は一単語で完結していて、ラテン語のflos/florem(花)が語源らしいけどね。
"新しい地図"
初見の場所は一度は必ず迷う人間なので、
新しい場所に来たらまず歩いてみる。
時間のあるときであれば、迷うのも楽しい。
最短距離と最適な道は違うから、
寄り道・脇道・回り道だって必要な過程。
何度も歩いて、自分だけの新しい地図を作っていく。
"好きだよ"
今も呪いのように纏わりつく言葉。
何も無い空っぽの部屋で、彼女は幼い僕を抱き締めて事あるごとにそう言った。
あはは、嘘つき。
だってあなたは僕のことなんてこれっぽっちも見ていなかっただろう?
"あなたはあの人の子供だから"
彼女はそればっかりだった。
"いつかあの人が迎えに来てくれる"
最後まで、彼女の"あの人"は来なかった。
彼女の葬儀にさえ姿を見せなかった。
誰かに期待したら駄目なんだよ。
感情なんて一方通行。あちらとこちらは違う側。
好意に見返りを期待する方が間違っているんだ。
ずうっと、そう思っていたんだけどなぁ。
当時の彼女の年齢を追い越したと気付いた時、
久しぶりに墓石の前に立った。
簡単に掃除をして、花を供えて、線香に火を灯す。
ねぇ、あなたは僕を愛していましたか。
僕を憎んでいましたか。
それともそれだけの感情を持つ価値もありませんでしたか。
当然返事はなくて、ただぼんやり線香の煙が空に流れていくのを目で追っていた。
どれくらいの時間、その場にいたのかな。
迎えに来てくれた貴女の手が温かくて、いつも冷たい手をしているのは貴女の方なのに逆だなぁ、と思ったのを覚えている。