"好きだよ"
今も呪いのように纏わりつく言葉。
何も無い空っぽの部屋で、彼女は幼い僕を抱き締めて事あるごとにそう言った。
あはは、嘘つき。
だってあなたは僕のことなんてこれっぽっちも見ていなかっただろう?
"あなたはあの人の子供だから"
彼女はそればっかりだった。
"いつかあの人が迎えに来てくれる"
最後まで、彼女の"あの人"は来なかった。
彼女の葬儀にさえ姿を見せなかった。
誰かに期待したら駄目なんだよ。
感情なんて一方通行。あちらとこちらは違う側。
好意に見返りを期待する方が間違っているんだ。
ずうっと、そう思っていたんだけどなぁ。
当時の彼女の年齢を追い越したと気付いた時、
久しぶりに墓石の前に立った。
簡単に掃除をして、花を供えて、線香に火を灯す。
ねぇ、あなたは僕を愛していましたか。
僕を憎んでいましたか。
それともそれだけの感情を持つ価値もありませんでしたか。
当然返事はなくて、ただぼんやり線香の煙が空に流れていくのを目で追っていた。
どれくらいの時間、その場にいたのかな。
迎えに来てくれた貴女の手が温かくて、いつも冷たい手をしているのは貴女の方なのに逆だなぁ、と思ったのを覚えている。
"桜"
夜桜のライトアップ。
綺麗だけど、過剰だとせっかくの花の色を潰しているようで残念な気持ちになる。
闇の中に白く浮き上がるような花明かりだけで十分なんだけどなぁ。
"君と"
君と共に、君を想って、君のために。
数多の物語、無数の楽曲や詩歌の中には、先人達が考えた"君"への言葉が綴られている。
世間には星の数ほど手本となるべき言葉が存在するはずなのに、それでも僕が貴女に伝えたい言葉にぴったり当てはまるものが見つからなくて、いつももどかしい思いをしていた。
"空に向かって"
今の季節から外れるけど、蓮が浮かんだ。
泥の中から空に向かって真っ直ぐに伸びる花。
神社仏閣で池一面に咲いていると迫力がある。
日の出と共に花が開き始め、午後にはほとんど閉じてしまうから、鑑賞するなら午前中がベスト。
葉の上を丸い水滴が転がる様子、実際のロータス効果が見られるのも良い。
去年は気付いた時には時期が過ぎていたから、今年は鑑賞できたらいいんだけど。問題は休日に観に行く程の気力が残っているかどうかだな。
"はじめまして"
本屋に寄った際、懐かしいタイトルの本を発見して思わず手に取ってしまった。
昔と同じ内容だったら流し読みでいいと思ったけど。
単なる新装版じゃなくて、加筆修正を加えた完全版。
それは購入しちゃうでしょ。
筋書きを覚えている物語でも、はじめましての文章や以前と変わった言い回しを見つけると心が躍る。
文章のリズムが変わると、全体の大枠は同じでも色が違って見えるから面白い。
これだから本を読むのはやめられない。