"空に向かって"
今の季節から外れるけど、蓮が浮かんだ。
泥の中から空に向かって真っ直ぐに伸びる花。
神社仏閣で池一面に咲いていると迫力がある。
日の出と共に花が開き始め、午後にはほとんど閉じてしまうから、鑑賞するなら午前中がベスト。
葉の上を丸い水滴が転がる様子、実際のロータス効果が見られるのも良い。
去年は気付いた時には時期が過ぎていたから、今年は鑑賞できたらいいんだけど。問題は休日に観に行く程の気力が残っているかどうかだな。
"はじめまして"
本屋に寄った際、懐かしいタイトルの本を発見して思わず手に取ってしまった。
昔と同じ内容だったら流し読みでいいと思ったけど。
単なる新装版じゃなくて、加筆修正を加えた完全版。
それは購入しちゃうでしょ。
筋書きを覚えている物語でも、はじめましての文章や以前と変わった言い回しを見つけると心が躍る。
文章のリズムが変わると、全体の大枠は同じでも色が違って見えるから面白い。
これだから本を読むのはやめられない。
"またね!"
"痛くないの?"と聞くと、"痛いよ"と言う。
"苦しくないの?"と聞くと、"苦しいよ"と答える。
"憎くないの?"と聞くと、"憎くないよ"と貴女は微笑った。
青色が少しずつ深まっていくのを、傍で見ていた。
一滴ずつインクを垂らしていくように、どうしようもなく確実に。
それでも貴女は家族を慕っていた。
だったらしょうがないよね。
家族は大事だもん。
またね、と家路に着く貴女を見送って、
あとどれくらいもつかなぁ、と考えていた。
もう少し介入が早ければ、貴女に取り返しのつかない傷を負わせることはなかったのかな、と今でも思う。
自分勝手な正義感と思い込みは相手を殺す。
望まれない限り、相手の事情に口出しするべきではない。
でもね。
本当に助けを必要とする人間は、
決して自分から助けを求めてくれないんだ。
だから、救いたい人がいるなら迷うな。
手遅れになる前に、こちらから手を伸ばせ。
たとえ伸ばした手に縋ってくれなくても。
嫌われても、拒絶されても、それでも強引にでもその手を掴まなきゃ、失くしちゃうんだよ。
"春風とともに"
英国の諺に、天気に関するものがある。
"March comes in like a lion and goes out like a lamb. (三月はライオンのようにやってきて、子羊のように去っていく)"
今年はまさにそんな感じだなぁ。
初旬はまだ風が冷たく荒れた天候だったけど、月末には穏やかな春の陽気になった。
各所で桜の開花がニュースになっている。
近所の桜並木は見頃まであともう少しかな。
今月も残すところあと一日。
穏やかな春風とともに三月が去っていき、
また新たな月がやってくる。
"涙"
君は泣き方が綺麗だね、と言われたことがある。
音もなく、ただ静かに涙だけが伝い落ちる。まるで無声映画や芝居みたいだ、と。
皮肉だなぁ。
声を上げて泣ける人や、大きな音で騒げる人はすごいなぁと思う。僕には出来ないや。
きっと、音を立てることを咎められた事が無いんだろうね。
息を殺して、顔色をうかがって、音に怯えて過ごした事が無いんだろうね。
幼い頃の記憶はいつまでも残る。
大きな音を出そうとすると、その度に静かにするよう水に沈められた記憶が脳裏を過ぎり、一瞬息が詰まる。
大きな声で笑ってみたかった。
思い切り泣いてみたかった。
自由に声を出せる人が羨ましかった。
だから以前は、笑い声も泣き声も、それを出せる人間も大嫌いだった。
音を出しても大丈夫なんだと貴女に教えてもらって、もう随分が経つ。
それでも未だ、音を立てないよう行動する癖が抜けない自分がいるんだから、呆れてしまうよね。