"バイバイ"
"バイバイ"って、最近全然言わないなぁ。
仲良しの友人同士や距離の近い関係性の人、仲間内、
もしくは子供さんに言うイメージがある。
いま自分が言うとしたら、さようなら、お疲れ様、 お元気で、あたりかな。
貴女がいなくなってからは他人行儀な付き合いしかないもので。
言える関係性の相手がいるのは貴重だと思う。
"旅の途中"
実際に行かないと分からない景色がある。
それと同時に、自分側の感受性の問題なのかもしれないけど、憧れは憧れのままにしていた方がいいというものもある。
でもね。
旅の途中で温かい飲み物を入手して、それを飲みながらのんびり雪景色を眺めるのは悪くなかった。その記憶だけで、次は何処に行こうかと予定を立て始める自分はほんと調子のいいやつだと思う。
"まだ知らない君"
わたしがどんな人間なのかまだ知らない君は
きっと後悔するだろうねと貴女は言った。
でもね。
後悔なんか、一度もしなかったよ。
後悔させて欲しかった。
知ったことを後悔するほど
貴女のことを沢山教えて欲しかった。
叶うのなら
もっと長く生きて欲しかったよ。
"日陰"
出会って間もない頃、長袖ばかり着ていた貴女からは不思議な香りがした。煙のような、少しいがらっぽい、でも心を落ち着けてくれるような香り。
袖がずれた際、腕に丸い火傷痕が幾つもあるのが見えて、その正体を悟った。
自嘲気味に、煙草の匂いが染み付いていて臭いでしょう、と貴女は笑う。
でも、人の密集した時の匂いや香水の混ざった匂いなんかよりもずっと好きで。
いい香りだよ?と首を傾げて言うと、泣きそうな顔でぎゅっと抱き締められた。
貴女が煙草嫌いだったから今でも喫煙はしないけど、昔からその香りは好きだった。
煙草の害は盛大に謳われているし、副流煙も身体に良くないと知っている。でも好みだから仕方ない。
金木犀や沈丁花なんかと同じで、街中でふと香りが漂ってくるとなんとなく気分が上がる。
今は歩き煙草も少なくなったし、喫煙所も縮小されてきており、喫煙者は日陰者になりつつある。
煙草本体は別にいいんだけど、香りだけは残って欲しいなぁ。煙草の香りの芳香剤とか発売されないだろうか。
"帽子かぶって"
以前、近くの空き地にタンポポの群生地があり、
時期になると一斉に綿帽子をかぶって揺れていた。
強い風が吹くと空高く舞い上がって、ふわりふわりと流れていく。
どこまでも流れていく綿帽子を目で追っていると、
青空は手を伸ばしたら届きそうなほど近く、遥か彼方まで広がっている気がした。
あの空き地は、今はもうない。
丁寧に整地され、黒いアスファルト舗装を施された後、白いフェンスで囲われた駐車場になった。
便利で綺麗になったと多くの人は喜んでいたけど、
ほんの少し、空が遠く、狭くなった気がした。