猫灘

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5/16/2023, 10:22:22 AM

愛があれば何でもできる?

愛があればなんでも出来るって?誰が言ったよそんなこと。
こんなのは情がなけりゃ出来ないよ。
茶封筒に入った書類を手に持って道路を駆けながらそう考えた。
朝出かける時に「この書類今日使うんだ~」とパヤパヤの頭で言っていたくせになんでその書類が玄関に置きっぱなんだよ。忘れたのか? あえてか? どちらか分からないが15分前に出かけたアイツを追いかけるために飛び出した。(勿論しっかりと戸締りはした)全力疾走なんていつぶりにするのだろうか。坂を駆け下りて駆け上ってぜーはーいいながらアイツを追いかける。
なかなか後ろ姿が見えないので意外と歩くの速いんだなとか、一緒に歩いてる時はゆっくり歩いてくれていたんだなとか思ったりした。
そこでようやく後ろ姿が見え「俊介!」と名前を呼ぶ。
そうすると俊介はゆっくりと振り返り「なんでここに居るの?」と言いやがる。お前の忘れ物を持ってきたんだよ。
「これ……!」
「あれ?俺忘れちゃってた?!ごめん彰くん」
「いいよ間に合って良かった……あーしんど」
地面にしゃがみこみ盛大なため息を吐く。
「ほんとにゴメンねぇ、今日のご飯は外に食べに行こ?奢るから」
「頼むわ……」
じゃあまた連絡する、と言えばにこーっと笑うのでやはり情がなければこんなことできやしないと思うのだ。

5/3/2023, 12:43:47 AM

優しくしないで

優しくしないで 期待してしまうから
優しくしないで 望んでしまうから

優しいあなたはいつだって
私のことを甘やかす
そんな時は
甘い甘い砂糖菓子になった気持ち

優しいあなたは今日もまた
私のことを甘やかす
だから私は
お皿の上に乗った
甘い甘い 砂糖菓子で
甘い甘い 蜂蜜酒なの

優しくしないで 期待してしまうから
優しくしないで 望んでしまうから

優しいあなたはいつだって
私のことを甘やかす
そんな時は
甘い甘い砂糖菓子になった気持ち

優しいあなたは明日もまた
飽きもせずに甘やかす
そんな時にずるい私は
刺激がちょっと欲しくなるの
胡椒の効いたグラタンを
ぺろりと平らげてしまう

優しくしないで もっと欲しくなるから
優しくしないで あなたが欲しくなるから

4/28/2023, 11:41:08 AM

刹那

一瞬だった。
目の前を一閃されたのにしばらく気が付かなかった。
「わしの勝ちじゃな」
へた、とその場に座り込んだ僕をにんまりと笑いながら見下ろす老骨はとても老骨とは思えない太刀筋を見せつけてくれたのだ。
「約束通りもうついてくるなよ~」
わしは余生をダラダラと生きるんじゃから、と言った彼は後ろ手に手を振りながら立ち去って行った。
一度だけ勝負をして欲しい、それで負けたら諦めるからと言ったのは自分だった。
それだと言うのにこの胸の高鳴りはなんだ。
ドクドクと高鳴る胸は血を身体中に送り、脳が焼き切れそうだった。
チカチカと未だ眩い一閃を脳が処理しきれていないのだろう。
あんなものを見せつけられて諦め切れるか!
「待ってくれよ!」
叫びながら追いかければ彼は「げぇ」と言いながら走り始めたけど逃がさない。こればかりは若さが有利だ。
引っ捕まえて絶対に弟子にしてもらう。
約束破りとかそんなの関係ない、ほら言うだろう。
惚れた方が負けだってさ!

4/28/2023, 6:13:25 AM

生きる意味

先輩が目を覚ました!
良かった、良かった!
あの時、二人で笑いあったと思ったら固まったまま動かなくなった時は驚いた。最近ボディの調子が悪いと言っていたからそれで動けないのかと思ったが何度話しかけても返事はなくおかしいと思った。
管理者に連絡をしメディカルルームへ連れて行ったらチップの劣化による意識の混濁が起きてるという。
直るのかと聞けば新しいメモリチップにデータをインストールすればなんとかなるだろうが、破損している部分がある場合はどうにもならないと言われた。
とりあえずそのままチップの交換を頼み自分は先輩が目を覚ますまでそばに居ることにした。
時間にしたら数時間しか経っていなかったが何日も待っているような気持ちだった。
先輩が目を覚ました時は驚いたし嬉しかった。
おまけでボディの不調も直すらしい。
それも含めて嬉しかった。
つまりこのさき何十年は無事だということだ。
嬉しい!嬉しい!
思わず目から涙が出てくるところだった。
こんな恥ずかしいところは先輩に見られたくない。
慌てて病室から飛び出して現場管理者に通信する。
「もしもし、先輩大丈夫そうでしたボディの交換も行うらしく三日は入院だそうです」
「そうか、ジャンクになるのを選ばなくてほっとしたよ」
「ジャンクって……今どきそれを選ぶの居るんですか」
「昔にな、あいつの先輩で居たんだよ。それでひどくあいつは気にしててな」
「そんなの先輩の所為じゃ」
「それでも気にしてたんだよ、まあ良かった」
お前は清掃に戻ってこいよと言われ「はい」と返事をして終わった。いつか言っていた先輩の先輩の話だろうか。
こんなに楽しい人がいるのにジャンクになるなんてなんて勿体ないと思うのだった。

4/26/2023, 3:04:44 PM

善悪

「あれ、大先輩は?」
朝の清掃の時間にいつも通りやって来たら大先輩の姿がなかった。いつもなら五分前には清掃業務についてるのに。
隣を通った丸型ロボットを呼び止め聞いてみれば「連れてかれたよ」とのこと。
連れてかれた? どこに? 誰に?
疑問符が浮かんでばかりだった時に、管理者がやってきた。
「管理者さん大先輩はどこ行っちゃったんですか?」
「大先輩?……ああ機体p-101のことかあれはな、ジャンクになることが決定した」
「は?なんで、ですか?」
言っていることが理解できない、なぜジャンクに?何のために?
「あれは型番が古いのに感情をもっただろう。あの機体が感情をもつことは禁止されているんだ」
「それなら今の機体に交換すれば!」
「私もそう言ったんだがな、思い出が詰まった機体を交換したくないと言って聞かなかったんだよ」
なんだそれ、なんだそれ。思い出なんて今からでもいっぱい作れるじゃないか。
「なんだよ、それ」
「私たちには私たちの善悪があるようにアイツにもなにか譲れないものがあったんだろう」
「そんな……」
落ち込む俺の肩を管理者はポンと叩くと手のひらを開きアイツが渡してくれとさと言う。メモリチップだった。こんなもの残すくらいならあんたの口から別れを言ってくれよと言いたくなったが言う相手は居なかった。

寮に帰宅してからも暫くはメモリチップを読み込む気になれなかった。でもあの人が(人では無いが)何かしらを思って残したものなのだと思うと見ない訳にはいかなかった。
再生機にメモリチップを挿入しコードを自分の首元に繋ぐ。
ザザ、と砂嵐が入った後に大先輩の声がする。
『あーあー、これ入ってるんですか?大丈夫?そっか。後輩くん元気にしてる?君のことだからすっごく怒ってると思う。でも僕はもう良くなっちゃったんだ。君みたいな友人もできて感情を知れて、色褪せていた世界がパッと明るくなってつまらなかった生活が凄く楽しくなった。ありがとう。君には感謝してもしきれないよ。……こんなものかな、ダラダラと話しちゃ君に迷惑がかかるしね、それじゃあまた会えたら。』
──プツン。
そこで映像は途切れた。なんだそれ。あんたはそれで満足かもしれないけど俺は嫌ですよ、もっとあんたと話したかったし下らないことがしたかった。それに。
「……俺のせいじゃねえか」
俺と出会って感情を知らなければそのまま動き続けていたんだろう。それならジャンクになることを選んだのは俺の所為だ。
涙なんてものは流れはしないが頭がひどく痛んだ。

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