【子猫】
子猫は旅をする
生まれて少しばかり育ったころに
母猫とはぐれ
生まれて初めて飢えを知り
生まれて初めて人間の温かさを知った
けれどそれにいつまでも縋ることは許されず
子猫は旅を続けることとなった
子猫は旅をする
どこに行くとも決めず
ただ歩いていく
生まれて初めて狩りに成功し
生まれて初めて自分より大きな猫と出会った
けれど分かりあうことはできず
子猫はまた旅を続けた
子猫は旅をする
自由気ままに旅をする
好きなものを好きなときに食べて
好きなときに眠って
好きなときにまた歩き出す
それを毎日繰り返していくうち
いつしか子猫は子猫でなくなっていた
立派な大人の猫になったとき
かつて子猫だった猫は
ようやく孤独の寂しさを知った
母猫と離れてから
ずっと独りで生きてきた
かわいいと言って寄ってくる人間から逃げて
他の猫と出会っても避けてきた
それでも生活はできたし
困ることはなかったが
こんなふうに大人になると
番う相手を見つけるものだと
本能が教えてくるのだ
他の猫と仲を深める術も知らない
旅を続けてきたからここがどこかも分からない
それでも
猫は自分の子猫に会いたくなった
そのときは
決して自分のような孤独な旅などさせまいと思った
猫は旅をする
いつか出会える未来の家族を探して
⭐︎引き継ぎに失敗していましたが、とても久しぶりにログインすることができました!
【秋風】
秋の空は寂しく切ない
君と見た赤い木々を思い出し
どこか鬱々とした気分になるから
俯く私の頬を
秋風がするりと撫でる
君の温もりはもう忘れた
今はただ冷たい秋風に
君との思い出を遠くへ吹き飛ばしてもらおう
【街の明かり】
夜道を歩いていると
不安に駆られる
得体の知れないものが
闇の中から現れないか
おかしな人がおかしな気を起こして
襲ってこないか
さまざまなことを考えるのだ
そんな時
街灯が点いているとホッとする
ぼんやりとした頼りない光だが
真っ暗闇よりはずっといい
仕事で疲れた日も
夜景を眺めると癒されるし
こうして帰り道には
私を少しだけ安心させてくれる
街の明かりは
いつも私を勇気づけ
何も言わずにただ見守ってくれている
【七夕】
どんな人にも少なからず欲があり
その願いが叶えばいいと密かに思っている
短冊に願いを書いて笹に吊るすなどという
ある意味自分の欲を公にする行事
それが七夕だ
けれどそんな風に晒せる願いなど限られている
本当に願いたいことは
心の中で天の川に向かって願うことしかできない
「宝くじが当たりますように」なんて
カモフラージュの願い事を短冊に書いてぶら下げて
心の中にはもっと大きな野望を抱き
天の川にだけ、その願いを託すのだ
【友だちの思い出】
小学生のころ
私はずいぶんと大人しい子供だった
だけどそれは本当の私ではなく
成長するにつれ
自分はお喋りな性格だと気が付いた
だから、家では家族とたくさん話していた
けれど大人を含め、周りのみんなは
私を大人しい子だと思い込んでいる
そのイメージをいきなり破壊するような勇気も
堂々としていられるような図太さも
当時の私にはなかった
だから私は
「大人しい子」として振る舞い続けた
でも、そんなある日
転校生がやって来た
その日の昼休み
私が教室で一人、本を読んでいると
転校生が話しかけてきた
なんの本を読んでるの? とか
そんな感じだったと思う
この転校生はまだ、私が「大人しい子」だと知らない
だから普通に話すことができた
楽しかったし、嬉しかったけれど
私はこのあとのことを考えていた
みんなの前で「大人しい子」として振る舞う私を見たら
この子はいったいどう思うのだろうと
結局、私とその転校生は
時々話すくらいの仲になった
でも深く仲良くなることもなかった
それから、その子は別の友だちをどんどん作っていった
よくよく考えたら当たり前だ
その子は、私が一人でいたとはいえ
知らない子に話しかけられるような
社交性の持ち主なのだから
私は私で
同じように本が好きな友だちと過ごすことが増えて
その子と関わることがほとんどなくなってしまい
そのまま学校も卒業して会うことすらなくなったけれど
私はやっぱり
その転校生とほんの数分話したことが
今でも忘れられないのだ