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6/13/2024, 11:41:50 AM

【あじさい】

あの人に出会ったのはある雨の日
紺色の傘を差して佇んでいた彼の背後には
青い紫陽花がたくさん咲いていた
彼の白い肌にその青がよく馴染んでいて
世の中にはこんなにも紫陽花が似合う人が居るのだと
初めて知った

やがて彼は紫陽花へと手を伸ばし
しばらくすると細い指先が何かを捕らえたのが分かった
よく見るとそれは蝸牛だった
細い指の上、ちょこんと乗った蝸牛
これはこれで似合っていた
そして
彼が蝸牛に向かって微笑みかけたのにドキッとして
私はそのまま恋に落ちてしまった

それから彼を見かけたことは一度もないけれど
紫陽花を見ると彼のことを必ず思い出す
あの紺色の傘
あの白い肌
あの指先
あの蝸牛
あの微笑み
あの日見た光景の全てが
一年経った今でもはっきりと思い出せる

あの人のことは何も知らないけれど
雰囲気や仕草、笑顔
どれも好きだった
まだ新しい恋も見つけられていない
あの人より心惹かれる人に出会えていない
紫陽花の青のように淡い色をした恋心は
今も消えることなく私の胸に残り続けている

6/12/2024, 2:00:26 PM

【好き嫌い】

美味しいと感じるものの方が少なく
食べるものにはいつも苦労してきた

野菜全般が苦手なため
レストランなどでメニューを見ると
このスパゲティにはグラタンには
どのくらい野菜が入っているのか、などと考えてしまう
「タマネギが入っているからこれは避けよう」
「この写真じゃ野菜が入ってるのかどうか分からないな」
と思うし
実際に注文した料理に野菜が入っていると絶望する

野菜以外にも嫌いな食べ物が多いので
たまに「何を食べて生きているのか」
と言われることがあるくらいだ

もちろん、好き嫌いをしたくてしているわけではない
美味しいと感じれば喜んで食べているし
自分でも面倒くさいことだと思っている

人それぞれ苦手な食べ物があるのは仕方がないと思う
逆に私が美味しいと思うものを
不味い、嫌いだという人もいるわけだ
好き嫌いがあるというのも
ある意味多様性なのかも知れない
健康のことや
さまざまな場面でのことを考えれば
何でも食べられた方がいいのは事実だが
そうすることが出来ないのなら
好き嫌いともうまく付き合わなければと思う
今苦手なものをいつか
食べたい、美味しいと思うその時まで
面倒くさい人で居ようと思う

6/11/2024, 10:53:06 AM

【街】

人々の嘘に塗れたこの街では
今日も愛想笑いと見え透いた世辞が交わされている
やって来た観光客に金を落とさせるため
張り付いたような笑顔で褒め倒すのだ
もちろん観光客が立ち去れば陰口三昧
「ここは田舎モンがくるようなところじゃねえんだよ」
「もっと金を使えよ貧乏人」
など言いたい放題だ
けれどこの街の住人は外面がいいので
あそこはいい街だ、会う人がみんな温かいなどと
良い評判が広まっている

きっとあなたがこの街に来た時も
住人たちは笑顔で迎えてくれることだろう
「お客さん大歓迎ですよ!」
「ゆっくり見ていってくださいね」
「美味しいものがたくさんだよ。ぜひ食べていってね!」
会う人それぞれが優しい言葉をかけてくれるだろう
あなたは日頃のストレスから解放され
すっかり癒されてから街を出るだろう
そのあとに住人たちが吐く汚い言葉など耳に入らぬまま
満足して家路に着くだろう

6/10/2024, 12:28:12 PM

【やりたいこと】

何も思いつかない
何もしたくない
何もせずただ朽ちていきたい
やりたいことなんてもうない
やり尽くしたのだ
自分が興味のあるものには片っ端から手を出し
そして興味を失っていったのだ
まずはやってみればいいなどとよく聞くが
さまざまなものに触れていれば
次第に向き不向きは分かってくるし
好き嫌いもはっきりしてくる

だからもう私にはやりたいことがないのだ
やりたいことはやったし
極めるものは極めて
やりたくないものはやらないことにした
明らかに苦手なものからは目を背けた

この世に私がやりたいことなどない
あるとすれば
何もせず朽ちることだけだ

6/10/2024, 12:49:26 AM

【朝日の温もり】

騒がしい夜を越え
静けさに包まれた朝がやって来た
朝日の温もりは冷え切った心を温め
私に今日を生きる元気をくれる

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