【あじさい】
あの人に出会ったのはある雨の日
紺色の傘を差して佇んでいた彼の背後には
青い紫陽花がたくさん咲いていた
彼の白い肌にその青がよく馴染んでいて
世の中にはこんなにも紫陽花が似合う人が居るのだと
初めて知った
やがて彼は紫陽花へと手を伸ばし
しばらくすると細い指先が何かを捕らえたのが分かった
よく見るとそれは蝸牛だった
細い指の上、ちょこんと乗った蝸牛
これはこれで似合っていた
そして
彼が蝸牛に向かって微笑みかけたのにドキッとして
私はそのまま恋に落ちてしまった
それから彼を見かけたことは一度もないけれど
紫陽花を見ると彼のことを必ず思い出す
あの紺色の傘
あの白い肌
あの指先
あの蝸牛
あの微笑み
あの日見た光景の全てが
一年経った今でもはっきりと思い出せる
あの人のことは何も知らないけれど
雰囲気や仕草、笑顔
どれも好きだった
まだ新しい恋も見つけられていない
あの人より心惹かれる人に出会えていない
紫陽花の青のように淡い色をした恋心は
今も消えることなく私の胸に残り続けている
6/13/2024, 11:41:50 AM