【半袖】

朝、暑いなと思ったので
俺は今年に入ってから初めて
ワイシャツを長袖から半袖に切り替えて出勤した

車では快適だったのだが
職場に着くと冷房がガンガンに効いており
「今日は暑いなー」と上司が話しかけてきた
出勤してきた同僚たちは涼しい涼しいと言って
みんなエアコンに感謝している
女性社員たちはカーディガンなどを羽織っているのでノーダメージ
そんな中、涼しすぎるとは言い出せず
俺は一日中縮こまって仕事をしていた

【天国と地獄】

ここは天国だ
美味しい木の実が食べ放題で
綺麗な女性がたくさんいて
しかも全員俺のことを愛してくれている
だから、俺が頼めば
掃除でも洗濯でも何でもしてくれるんだ
好きな時に寝て、好きな時に遊んで
仕事は一切しなくていい
ここは本当に最高の場所だ

だが、ある日突然
神様が現れて言ったのだ
「お前は皆が大切に育てている木の実を毎日のように食い散らかし、仕事もせず寝て遊んで暮らしている。
女性たちが親切にしてくれているのをいいことに、自分ですべきことまで頼っている。
お前には天国にいる資格はない！」

神様に怒鳴られた瞬間、地面に引っ張られるようにすごい勢いで体が落ちていく
そして俺はあっという間に
暗く恐ろしい地獄へと堕とされたのだ

ここは地獄だ
閻魔様の食べたメシの残りカスを
たくさんの飢えた悪人たちが毎日のように取り合う
痩せているせいでみんなぎょろぎょろとした目をしていて
全員が俺を睨み、唸り声を上げている
何かを質問したくとも会話すらしてくれず
訳の分からないことを言いながら殴りかかってきたり
不潔な手で掴まれて暴言を吐かれたり
しかも、ほとんどの時間は労働をさせられる
血の池を掃除したり、誰のかも分からない骨の山を運んだり
身体的にも精神的にもキツい仕事だ
一日に眠ることができるのは一時間あるかないか
ここは本当に最悪の場所だ

ここから出る方法を俺は知らない
天国と地獄には文字通り天と地ほどの差がある
地獄に堕とされた俺は
どうしたら天国に戻れるのだろう……

【月に願いを】

お月さま、おねがいします！
ぼくは、ペットを飼ったことがありません。
だけどようちえんに行っていたころ、ようちえんで飼われているうさぎの世話を毎日していました。
ふわふわでかわいくて、はっぱを食べるところを見ているのが好きでした。
だけどぼくは小学生になったので、うさぎに会えなくなりました。
とてもさびしいです。

お月さま、おねがいします！
お月さまにはうさぎがいるって、絵本で読みました。
だからお月さまに、ぼくの家までうさぎを送ってもらえませんか。
だいじにだいじに育てるって約束します。
ようちえんのうさぎと同じように、毎日ちゃんとお世話します。
ぼく、どうしてもうさぎと暮らしたいんです。
一番の友だちになりたいんです。
ちゃんとお母さんのいうことを聞いていい子にしてるので、お願いします！

【降り止まない雨】

夜中からずっと雨が降り続けている
いつもは憂鬱だけど、今日は嬉しい
体育祭が延期になったから
降り止まない雨は
運動が苦手な私の味方だ
延期した日にもまた雨が降ってくれればいいのに
この雨が降り止まなければいいのに

【あの頃の私へ】

もしもし
あの頃の私、聞いていますか？
十年後の未来から電話をしています
あなたは今、死ぬほど辛い思いをしているでしょう
恋人に裏切られて、親とも大喧嘩して
一人暮らしをしている家で
寂しく泣いている頃でしょう
死にたいと思っていることでしょう
そして
飲み薬を沢山持ってきて
それを飲んで死のうとしているでしょう

でもね
あなたは死なない
飲もうとした沢山の薬を手放して
また泣いているでしょう
私が生きているのが何よりの証明です

あの頃の私
あなたは死なないことを選んだ
生きることを選んだ
素晴らしい決断をしましたね

けれどあなたのその決断のせいで
今の私はあなたよりずっと辛い思いをしていることを
あなたは知らないでしょう

あなたはある男と結婚しますが
たった数ヶ月で旦那の不倫が発覚し離婚します
新しく恋人ができますが
その男は既婚者で
幸せな結婚生活を夢見るあなたは
三年を無駄にすることになります
そしてその悲しみから立ち直った頃
無謀な運転をする車に轢かれ
顔には大きな傷跡ができます
あなたはその見た目のせいで陰口を叩かれ
精神を病み
仕事を続けることもできなくなります
やがて足の病気になり
片足を切断することになります
ストレスで脱毛症になり肌は荒れ
時折吐き気に襲われながら
寝たきりで過ごします

それからは
外出をすることもなくなり
死んだように生きながら
また死ぬことを考えています

そして
あの頃に死んでおけばよかったと
毎日何度も何度も考えています

あの頃のあなたの決断は立派でした
でも
それは世間的に見れば、という話でしかありません
あなたは選択を誤った
こんな思いをするくらいなら
私はあの頃に死んでおけばよかった

はっきり言います
あなたのせいです
あなたが死ななかったから
私は今苦しい思いをしている
本当に迷惑です
本当に後悔しています
あなたの決断を馬鹿だと思います

この電話で伝えたいことはただ一つです
電話を切ったら
もう一度「決断」してください
今度こそ選択を誤らないでください
今の私が消えることが
あなたが正しく行動したという
確かな証になります

一緒にこの世から去りましょう
生きている年は違くとも
私たちは同時に消えることができるはずですから