【逃れられない】
毎日毎日苦しいんだ
頑張りたくないんだ
けれど終わるためには
行動しなければならない
そんな度胸もない
だから
死んだように生きるしかない
逃れられない
逃れられない
早くこの胸の鼓動を止めてくれ
安らかな終わりを与えてくれ
逃れたい逃れたい
逃れたいのに逃れられない
【また明日】
学校からの帰り道
笑顔で手を振って「また明日」と
君が言う
そんな日々が三年間続いて
卒業式を迎えた
君は僕に「また会おうね」と言った
これから僕らが学校で会うことはなくなる
だけど君とは
これからも変わらず会っていたかった
口下手な僕は頷くことしかできなかったけれど
君はいつも通りの笑顔を見せてくれた
そのあとはお互い連絡を取ることもなくて
そのまま会うこともなくなってしまった
あんなに毎日会って一緒に帰っていたのにな
これが僕の初恋だったのだと気付いたのは
だいぶ先のことだ
【透明】
朝、大嫌いな学校に行く
教室に着くと
中からはがやがやとみんなの声が聞こえてくる
教室の入り口に立って
勇気を出し「おはよう」と大きな声で言う
けれどみんなは僕をチラッと見るだけで
自分たちの話題に戻っていく
一瞬僕を見た目は冷たかった
いつものことだ
休み時間にトイレに行って
席に戻ってきたら
持ってきたはずの教科書が無くなっていた
仕方がないので
隣の席の男子に見せてくれるよう頼んだけれど
僕の声など聞こえていないかのように
他のクラスメイトと話を始めた
昼休み
僕が独りで弁当を食べていると
みんなの楽しそうな声が周りから聞こえてくる
一人の男子が丸めたゴミを投げて遊び始め
途中で僕に当たっても
拾い上げて何事もなかったかのように
遊びを再開する
当たり前のように独りで帰宅する
母さんに「お帰り」と言われて
僕は透明じゃなかったんだ、ちゃんとここに居るんだって
安心しながらも本当に悲しくて
自分の部屋に逃げ込んだ
【理想のあなた】
ねえねえあなた
私の思い通りにならないならば
消えてくださる?
あなたは二人も要らないし
理想のあなたじゃなければ意味がないの
今は技術が進んでるから
お金さえあれば
綺麗なグラフィックであなたの綺麗なお顔を再現できるし
AIに学習させればリアルで豊富な会話を楽しむことができるわ
あなたが言いそうなことを言ってくれるし
あなたが吐いた酷い言葉なんて決して言わないようにもできる
合成音声を採用すればあなたの声で話もしてくれるわ
ほら、この子がその試作品よ
ねえねえあなた
息はまだある?
早くこの世から居なくなってね?
この子が本物で唯一になるために
あなたは必要ないの
残念なのはあなたの触り心地のいい髪が肌が
この子ではまだ再現できないこと
あなたの澄んだ瞳がグラフィックなんかじゃ再現できないこと
ああ、でももうあなたの瞳も
暗く濁ってきてるわね
大丈夫、安心して目を閉じて、居なくなって
私が生きているうちに
完璧なあなたを作ってみせるから
私にとっての理想のあなたを……ね
それじゃ、おやすみなさい
【突然の別れ】
あの子のおかげで私たちのあいだには
温かい空気が流れ始めた
冷え切った関係を終わりにしようとしていたのに
空気は一変した
けれどあの子は
この世で五分しか生きられなかった
ずっと会えるのを楽しみにしていた
それなのに
突然の別れは
私たちを前よりもずっと
暗く冷たく深いところに突き落とした
もしもあの子がいてくれたら
今ごろ笑顔が絶えなかったはずなのに