【透明】
朝、大嫌いな学校に行く
教室に着くと
中からはがやがやとみんなの声が聞こえてくる
教室の入り口に立って
勇気を出し「おはよう」と大きな声で言う
けれどみんなは僕をチラッと見るだけで
自分たちの話題に戻っていく
一瞬僕を見た目は冷たかった
いつものことだ
休み時間にトイレに行って
席に戻ってきたら
持ってきたはずの教科書が無くなっていた
仕方がないので
隣の席の男子に見せてくれるよう頼んだけれど
僕の声など聞こえていないかのように
他のクラスメイトと話を始めた
昼休み
僕が独りで弁当を食べていると
みんなの楽しそうな声が周りから聞こえてくる
一人の男子が丸めたゴミを投げて遊び始め
途中で僕に当たっても
拾い上げて何事もなかったかのように
遊びを再開する
当たり前のように独りで帰宅する
母さんに「お帰り」と言われて
僕は透明じゃなかったんだ、ちゃんとここに居るんだって
安心しながらも本当に悲しくて
自分の部屋に逃げ込んだ
【理想のあなた】
ねえねえあなた
私の思い通りにならないならば
消えてくださる?
あなたは二人も要らないし
理想のあなたじゃなければ意味がないの
今は技術が進んでるから
お金さえあれば
綺麗なグラフィックであなたの綺麗なお顔を再現できるし
AIに学習させればリアルで豊富な会話を楽しむことができるわ
あなたが言いそうなことを言ってくれるし
あなたが吐いた酷い言葉なんて決して言わないようにもできる
合成音声を採用すればあなたの声で話もしてくれるわ
ほら、この子がその試作品よ
ねえねえあなた
息はまだある?
早くこの世から居なくなってね?
この子が本物で唯一になるために
あなたは必要ないの
残念なのはあなたの触り心地のいい髪が肌が
この子ではまだ再現できないこと
あなたの澄んだ瞳がグラフィックなんかじゃ再現できないこと
ああ、でももうあなたの瞳も
暗く濁ってきてるわね
大丈夫、安心して目を閉じて、居なくなって
私が生きているうちに
完璧なあなたを作ってみせるから
私にとっての理想のあなたを……ね
それじゃ、おやすみなさい
【突然の別れ】
あの子のおかげで私たちのあいだには
温かい空気が流れ始めた
冷え切った関係を終わりにしようとしていたのに
空気は一変した
けれどあの子は
この世で五分しか生きられなかった
ずっと会えるのを楽しみにしていた
それなのに
突然の別れは
私たちを前よりもずっと
暗く冷たく深いところに突き落とした
もしもあの子がいてくれたら
今ごろ笑顔が絶えなかったはずなのに
【恋物語】
平凡で目立たない私の前に
ある日あの人が現れた
それからは恋愛ドラマの世界に入ったみたいな
照れくさくなるくらいの恋物語がはじまったの
男の人とデートするのも
手を繋ぐのも初めてで
こんなに人を好きになったのも初めてで
自分のダメなところや醜い心とも向き合って
それでもそんな私をあの人に好きになってほしくて
たくさん頑張った
たくさん好きになった
だけどこの恋物語の結末は
ハッピーエンドじゃなかった
あの人は私ではない人を選んだの
けれどこの恋物語は
ずっと私の胸の奥に閉まっておくんだ
私が一番輝いていた瞬間だから
【真夜中】
まだまだ起きてるよ
眠りたくないよ
この素晴らしい世界を終わらせたくないよ
深い深い夜に沈み込んで
静かな闇と手を取り合うよ
昼間は陽キャが仕切っていても
真夜中は僕の舞台だ
ほら足音もさせず廊下を歩こう
声にならない歌を歌おう
みんなが寝静まっている今
僕は独りで活動する
誰にも邪魔されず
僕が僕らしくなれる時間
それが真夜中なのさ