【怖がり】
昔、夜のトイレって怖くなかった?
昼間は普通に行けるのに、夜になるとなぜか怖く思えるの。
それなのに夜中に目が覚めてトイレに行きたくなるから困る。
だからお母さんについてきてって言うんだけど、お母さんも眠いから一人で行ってきてって。
しばらくついてきて、嫌だ、っていうのが続くうち、トイレも我慢できなくなってくるから、仕方なく一人で行くことになるんだよね。
でも、夜のトイレは怖い。トイレの電気をつけても、どこかに何かが潜んでいるような気がしてくる。
本当に夜だけ、そんなことを考えちゃう。
用を足してるあいだにも、この無防備な時に何か得体の知れないものが襲ってくるんじゃないかって気が気じゃなかった。
そう、僕ってだいぶ怖がりな子供だったんだよ。
え、今の僕?
今はもう二十代半ばの立派な大人なんだけどね。
ホラー映画やスプラッタ映画を観るのが趣味な大人になっちゃった。
お化け屋敷に入っても、そこにいるお化けを冷めた目で見てるような大人に。
なんでって……だって、十代後半くらいから、トイレに居る「得体の知れないもの」に何度も出くわすようになったから。
前は存在を感じるだけだったのに、成長と共に実際に「見える」ようになっちゃって。
だから、作り物を見ても怖くなんかないのさ。
本物こそ、ふとしたきっかけで豹変することを知っているし、姿形も言動も本当に恐ろしいからね。
怖がりな少年は、時を経てこんな風に育ちましたよ。
【星が溢れる】
出会った時から
君の瞳の色が好きだった
薄茶色の透明感ある瞳は
僕をすぐさま魅了した
やがて付き合いはじめて
何度目かのデートの時に夜景を見に行った
君が笑いながら僕を見上げたら
その瞳の中がキラキラしていて
まるで星が溢れているようだった
瞬きするたびに星が弾けてはまた生まれ
それがとても綺麗だった
僕は君のことが好きで好きで
その瞳も好きで好きで
心の中は未来への希望に満ち溢れていて
無数の流星が降り注いでいるかのようだ
これからも君と
穏やかな時間が過ごせますように
心の中の流星にそっと祈った
【安らかな瞳】
あの娘はたくさん苦しんだ
僕にはとても想像できないほどに
毎日のように僕に電話をかけてきて
何時間も泣いていた
あの娘は苦しんだ挙句
自分で命を絶とうとした
幸い命は取り止めたが
記憶を失くしていた
僕と出会った時にはすでに
深い苦しみの中に囚われていたあの娘は
記憶を失った今
僕が見たことがないくらい安らかな瞳をしていた
苦しい記憶を失くし
自分の積み上げてきたものも
楽しい思い出も失くし
今僕の前で
安らかな瞳をして微笑んでいる
「あなたは誰?」
何の不安も無さそうな顔をして言うのを聞いて
苦しんでいないことは嬉しいのに
やっぱりすごく悲しくて苦しくて
気付けば堪えきれなかった涙が頬を伝っていた
【ずっと隣で】
あなたの隣に居たいの
嬉しいことがあった時の輝くような笑顔も
夢に向かって努力している時の真剣な表情も
ずっと隣で見ていたい
時々落ち込んだり
辛い思いもすると思うけど
そんな時は
ずっと隣で支えたい
ねえ
ずっとあなたの隣に居たいと思うのは
ワガママなのかな?
この願いが叶う時は
来るのかな?
【もっと知りたい】
初めて同じクラスになった君
君のこと、初めはなんにも知らなかったけれど
授業中ノートに落書きしてることや
昼休みにいつも焼きそばパンを食べてること
友達とわいわい騒ぐより、だらだらと話すのが好きなこと
こっそり観察しているうちに
少しずつ君のことが分かるようになった
だけどまだまだ足りないんだ
君のことが
もっと知りたい