【こんな夢を見た】
僕、手で触ったもの全てがお金になっていく夢を見たんだ。
最初は嬉しかった。
石を触っても、ゴミを触っても、全部お札になるんだ。
だけど、美味しそうなピザを食べようとしてもお金になっちゃって。
しばらくするとトイレに行きたくなって、トイレのドアノブを掴んだけど、お金になって、ドアも無くなって。
仕方ないからドアがないトイレに入ったけど、洋式トイレの蓋を開けたら、それもお金になっちゃって。
怖くなって、廊下にいた父さんに抱きついたら、父さんまでお金になってしまった。
外に出ようと思って玄関のドアに触ったら、それもお金になって。
走って走って、汗をかいて。
汗が額から垂れるのを拭おうと思って手を当てたら、そこから、はらりとお札が降ってきた。
びっくりして、そこに額があるのを確かめようとしたら、頭を触っちゃって。またお札が降ってきた。
怖くて涙が流れて、でもそれを拭ったら同じことになるって思って。
僕の目の前には札束の山があるけど、全然嬉しくなくて、怖くて仕方なくて。
気が付いたら、自分の部屋だったよ。安心して泣きながら、夢で良かったなあと思ったんだけど、すぐに気が付いちゃった。
我慢してたトイレ、安心したら出ちゃったみたい。
【タイムマシーン】
タイムマシーンがあったら、俺は死んだじいちゃんに会いに行く。
俺が産まれた時には、すでにこの世に居なかったから。
ばあちゃんは、じいちゃんほど良い男は居なかったとしょっちゅう言っていた。
男前で、頼りになって、誰にでも優しくて、頭が良かったらしい。あんたもじいちゃんみたいな男になりなさいね、とばあちゃんは口癖のように俺に言った。
俺はじいちゃんに会ったことはないけれど、じいちゃんの話ならたくさん知っている。ばあちゃんがたくさん話してくれたからな。
写真でしか見たことがないじいちゃんは、男の俺から見ても男前で、優しそうな笑顔を浮かべていた。
じいちゃんとは会ったことがなくても、もう何度も会っているような気がする。だけど実際には会っていないから、俺の想像のじいちゃんと本当のじいちゃんは、きっと違うんだろうな。
俺はタイムマシーンが出来たら、じいちゃんに会いに行って、こっそり様子を見ていたい。
若い頃のばあちゃんと、幸せそうに暮らしている姿が見たいんだ。きっとばあちゃんは、俺が今までに見たことないくらい、いい顔で笑っているはずだから。
【特別な夜】
アンタが好きだ、と言われて
俺は笑顔でそれを受け入れた
僕はずっとアンタだけを見ていたんだ、と
俯きながら話す君に
ありがとうと答えた
いつも通りの夜のはずだったのに
君の言葉ひとつで
特別な夜に変わった
【海の底】
深く暗く青い海の底
そこにずっと沈んでいる
遥か昔の宝物たち
輝くコインはすでに光を失い
綺麗な絵は跡形もなく
彫刻はひび割れわずかしか残っていない
それらが朽ちるのを見てきた魚たち
そんなことなどどうでもいいと
ただ生きて、暮らしている
海の底は今日も仄暗く、平和だ
数々の宝が価値を失おうとも
魚たちには関係ない
ゆったりとした時間の中で
金銀財宝に目が眩むこともなく
ただただ彼らは
この瞬間(とき)を生きている
【君に会いたくて】
ただの友達だった
何人かいる友達の中の一人だった
たった一度ときめいて
何度か電話をして
たまに遠くから手を振り合って
それだけだった
でも、どうしてだろうね
不意に君のことを思い出すんだ
朝、電車に揺られてる時とか
退屈な授業中とか
家で勉強してる時とか
お風呂に入ってる時とか
寝る前とか
気が付けば君のことを考えてる
一日中、頭の中は君のことばかり
ねえ、どうしてかな
たまにみんなで遊ぶ友達の中の一人だったはずの
君に会いたくてたまらないんだ