【寒さが身に染みて】
二ヶ月付き合った彼女にフラれた。
原因は俺が彼女の温もりを求めすぎたこと。
まだ早いかな、ってやんわり断られているにも関わらず、彼女がおっとりした性格なのをいいことに、ガンガン攻めすぎた。
だけど彼女がおっとりした性格なのは事実だが、言う時ははっきり言うタイプだということまでは知らなかった。
だから俺は、あなたみたいな人とは別れますとはっきり言われ、フラれたのだ。
一人で歩いて帰路につく。
冬の冷たい風が余計に心を寂しくする。
温もりを求めすぎた結果一人きりになり、寒さが身に染みて、苦しい。
【20歳】
僕が二十歳になった時、僕を祝ってくれる人はもう居なかった。
父方のじいちゃんとばあちゃんは僕が中学生の時に亡くなった。母方のじいちゃんは僕が産まれるよりずっと前に亡くなっていて、ばあちゃんは僕が高校生の時に亡くなった。
父さんと母さんは、僕が十九歳の時に二人で旅行に行き、交通事故でこの世を去った。
僕は一人で狭いアパート暮らし。六月十五日に二十回目の誕生日を迎えて、とうとう大人になったけれど、それを祝ってくれる人は居ない。
成人の日でさえ、僕は成人式に行くこともなく仕事をしていた。
もし、みんなが生きていたら。立派になったねと言ってくれたかな。
おめでとうって言ってくれたかな。
お前が成人したら、一緒に酒を飲みたいと言っていた父さん。あんたが結婚してお嫁さんや子供ができるのが楽しみと言っていた母さん。大きくなったね、と会うたびに言って、これからが楽しみだと笑っていた、じいちゃんやばあちゃん。
みんなに、今の僕を見せたかったな。
・・・
あれから五年。僕は二十五歳になった。
結婚して、息子が産まれて。家族ができた。
今日は六月十五日。僕の二十五歳の誕生日だ。
「パパ、おめでとう!」
三歳の息子は満面の笑みで言って、自分が描いた絵をくれた。
「あなた、おめでとう」
妻もそう言うと、綺麗な箱に入った時計をくれた。
「ありがとう」
僕は泣きながら答えて、二人を力いっぱい抱きしめた。
二十歳になった僕を祝ってくれる人は居なかったけれど。
二十五歳の僕は幸せに暮らしていると、今は会えない大事な人たちに伝えたい。
じいちゃんやばあちゃん、父さんや母さん、みんなが居たお陰で僕が産まれて、大事な人に出会えて。今、僕はたしかに幸せなのだから。
【三日月】
あたし、パンの中ではクロワッサンが好き!
三日月型で見た目も可愛いし、何より美味しいの!
三日月なのに美味しいって最強だよね!
でもさあ、もしクロワッサンが満月型だったら、もっとたくさん食べられたのかなーと思っちゃう時あるなあ。
あ、それじゃあクロワッサンじゃなくなっちゃうか!
【色とりどり】
綺麗な色がたくさんで、見ているだけで心が躍る
小さな頃のお祭りの思い出だ
りんご飴は赤くて、射的の的になってるおもちゃはカラフル
金魚すくいの金魚が入ってるプールは水色
チョコバナナにかかるカラースプレーまでいろんな色だ
きらきらしたスーパーボールも色とりどりで楽しい
目に映るもの全てが美しく
今も色褪せない思い出だ
【雪】
雪がふってきた!
すごい!どこを見ても真っ白だ!
はじめて見る雪だ!
お父さんがかまくらを作ってくれてる!
おっきい!すごいなあ!
ぼくはこっちで雪だるまを作ろう!
あれ、知らないおじさんが遠くにいる!
お父さんの後ろに行ったぞ?
あれ、あれ、あれ?
おかしいなあ
真っ白な雪がたくさんなのに
お父さんのまわりだけ
真っ赤だ
まだ真っ白な雪がふってる
真っ赤なのも
お父さんも
かくれていく
そうだよ
全部真っ白だよ
真っ赤なんてなかったんだ
お父さんもいなかったんだ
真っ白だよ
全部、全部
真っ白な雪だよ