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【20歳】

僕が二十歳になった時、僕を祝ってくれる人はもう居なかった。
父方のじいちゃんとばあちゃんは僕が中学生の時に亡くなった。母方のじいちゃんは僕が産まれるよりずっと前に亡くなっていて、ばあちゃんは僕が高校生の時に亡くなった。
父さんと母さんは、僕が十九歳の時に二人で旅行に行き、交通事故でこの世を去った。

僕は一人で狭いアパート暮らし。六月十五日に二十回目の誕生日を迎えて、とうとう大人になったけれど、それを祝ってくれる人は居ない。
成人の日でさえ、僕は成人式に行くこともなく仕事をしていた。

もし、みんなが生きていたら。立派になったねと言ってくれたかな。
おめでとうって言ってくれたかな。
お前が成人したら、一緒に酒を飲みたいと言っていた父さん。あんたが結婚してお嫁さんや子供ができるのが楽しみと言っていた母さん。大きくなったね、と会うたびに言って、これからが楽しみだと笑っていた、じいちゃんやばあちゃん。
みんなに、今の僕を見せたかったな。

・・・

あれから五年。僕は二十五歳になった。
結婚して、息子が産まれて。家族ができた。
今日は六月十五日。僕の二十五歳の誕生日だ。
「パパ、おめでとう!」
三歳の息子は満面の笑みで言って、自分が描いた絵をくれた。
「あなた、おめでとう」
妻もそう言うと、綺麗な箱に入った時計をくれた。
「ありがとう」
僕は泣きながら答えて、二人を力いっぱい抱きしめた。

二十歳になった僕を祝ってくれる人は居なかったけれど。
二十五歳の僕は幸せに暮らしていると、今は会えない大事な人たちに伝えたい。
じいちゃんやばあちゃん、父さんや母さん、みんなが居たお陰で僕が産まれて、大事な人に出会えて。今、僕はたしかに幸せなのだから。

1/10/2024, 2:16:22 PM