Open App
12/3/2023, 10:13:33 AM

【さよならは言わないで】

あたしのことなんてさっさと忘れてよ
あんたには新しい人がすぐ見つかるからさ
あたし? あたしはもういいの
一人で生きていくって決めたから
あたしみたいな余命が短い奴と、誰が喜んで付き合うのよ

でもさ、寂しくなるから
さよならだけは言わないでくれる?
さらっと明るく別れようよ
あー、あんたはそんなこと出来ないか
あり得ないくらい真面目だもんな
ある程度は分かってたけどさあ……
まあ、いつもお互いの家に帰る時みたいに
バイバイ、で別れよう
さよならは言わないで

もし、何年か経ったあとも
あんたがあたしのことを変わらず好きだったら
さよならは、本当のさよならの時に
あんたが言ってよ
あたしに会いに来た時に……ね
だけどさ、あたしは何も返事できないわけじゃん
そういうの、悲しすぎない?
だから、あたしのことはすぐに忘れた方がいいってこと
あたしとあんたのさよならは、ここで永遠に封印しよ
それじゃあね、バイバイ

12/2/2023, 3:58:25 PM

【光と闇の狭間で】

美しい世界が大好きだった
まるで光が降るかのような輝いている街
静かな朝の澄んだ空気
開けた窓から差し込む陽光
この世は光に満ち溢れていると思っていた

けれど街は一瞬にして破壊され
朝から飛び回る戦闘機の音が不安を煽る
闇の中に一日中いるような苦しさが
自分や人々を支配した

あれから時が経ち
街は少しずつ以前の姿を取り戻している
人々の笑顔も戻りつつあった
だけど
二度と元に戻らないものもあった
生涯消えない悲しみもある
それでも生きる限り
人は前を向かければならない
そんな残酷な運命(さだめ)を抱えながら
光と闇の狭間で、生きていく

12/1/2023, 10:20:09 AM

【距離】

「これ、ありがとな」

朝、学校に着くと、昨日隣の席の相川君に貸したノートが返ってきた。

「すっげえ助かった! 今回のテストは、伊藤のお陰でいい点取れそうだわ」
「そう? それなら良かった」

調子がいいこと言ってるだけかも知れないけど、何だか嬉しい。

「伊藤って結構、字綺麗なんだな」
「なに? もっと汚い字を書いてそうに見えた?」
「思ってねーよ。むしろ伊藤らしかったっつーか……あ、いや、今のは忘れて」
「ふふっ、何それ」

照れたように頭を掻いている相川君が面白い。私は思わず吹き出した。

「あー……あのさ。今後も、テスト前にノート貸してくれたら嬉しい。席替えしてからも」
「えー。ノートの予約?」
「そう! 伊藤が他の誰かにノート貸す前に、予約」
「しょうがないなあ……それなら、相川君にだけ貸すね」
「マジで!? よっしゃ!」

素直に喜びを表す相川君が可愛く見えて、その笑顔に胸がきゅんとした。

相川君と私の席の距離は、いつも通り。だけど心の距離は少しだけ近づいた気がしたんだ。

11/30/2023, 10:05:45 AM

【泣かないで】

「大丈夫だから」
優しく言いながら頭を撫でてくるのが切なくて、余計に雫が溢れ出す。
「また会えるよ」
「そんな言葉、信じられるかよ!」
情けない泣き顔のまま叫ぶと、目の前の顔が哀しそうに歪んだ。
「信じてよ」
「……」
「また必ず会えるから。だから、泣かないで」
一度頬を撫でられて、手が離れるとその体温はすうっと消えて。
「またね」
「……ああ」
この温もりが戻ってくることなど二度とないと分かっているのに。俺は涙を拭って、あの人の最後の言葉を信じようと思ってしまった。

11/29/2023, 3:02:53 PM

【冬のはじまり】

冬がはじまったなあ、と思う時は
仕事から家に帰ると
コタツがある時
奥さんが出しておいてくれたんだな、とつい微笑んでしまう
「まだコタツには早いんじゃない?」
と言いながらもスイッチを入れて、足を突っ込むと
奥さんから「たまに寒い日もあるでしょ」との答えが返ってくる
そのうち足だけが温まってきて
ああ、もう冬だな、って

Next