【距離】
「これ、ありがとな」
朝、学校に着くと、昨日隣の席の相川君に貸したノートが返ってきた。
「すっげえ助かった! 今回のテストは、伊藤のお陰でいい点取れそうだわ」
「そう? それなら良かった」
調子がいいこと言ってるだけかも知れないけど、何だか嬉しい。
「伊藤って結構、字綺麗なんだな」
「なに? もっと汚い字を書いてそうに見えた?」
「思ってねーよ。むしろ伊藤らしかったっつーか……あ、いや、今のは忘れて」
「ふふっ、何それ」
照れたように頭を掻いている相川君が面白い。私は思わず吹き出した。
「あー……あのさ。今後も、テスト前にノート貸してくれたら嬉しい。席替えしてからも」
「えー。ノートの予約?」
「そう! 伊藤が他の誰かにノート貸す前に、予約」
「しょうがないなあ……それなら、相川君にだけ貸すね」
「マジで!? よっしゃ!」
素直に喜びを表す相川君が可愛く見えて、その笑顔に胸がきゅんとした。
相川君と私の席の距離は、いつも通り。だけど心の距離は少しだけ近づいた気がしたんだ。
12/1/2023, 10:20:09 AM