秋晴れ
明日はいい天気らしい
気持ちの良い朝を迎えたい
鼻歌歌いながら洗濯干したい
レインコートも傘も干してカラフルなベランダにしよう
縦読みチャレンジ。
雨の日の次の日はどこのお家もベランダが賑やか。
秋晴れの日曜日に洗濯祭りを楽しもう。
私の日記帳
私は私のことを語るのが苦手。
私のことがわからないわけではないけれど。
私のことを話しておもしろいと思ってもらえることは少ないだろうなとか。共感してもらえることは少ないだろうなとか。
独特な物事の捉え方や変わった体験をすることもあって、それを書いたら個人が特定されてしまうのではないかという不安もある。
だからあとにも先にも公開する日記はない。
創作なら自由に書けるのがいい。
『やるせない気持ち』
三日坊主は嫌なのにお題に沿ったストーリーが思い浮かばないときの気持ち。
だからといって急にエッセイ書くのもどうなのという気持ち。
しかしながらパスするのもなんだか気が引けるという気持ち。
気持ちの羅列がどうにもやるせない。
短編小説『海へ』
日課の散歩の帰り道、いつもはひたすらにまっすぐ進むラブラドールのレイが珍しく草むらに鼻を突っ込んだ。もわりと羽虫が舞う。慌てて手で払い避けたとき、よろめいて草むらに足を踏み入れた。レイが私を見上げる。その足元に何かがある。
石? と拾いあげたのは巻き貝だった。
こんな草ぼうぼうのところに貝殻があるなんて。
不思議に思ってじっと貝殻を見つめているとレイが足元で鳴いた。くうん、と問いかけるような鳴き声。私の手元をじっと見ている。
これ? と聞きながら何気なく巻き貝を耳元で振ると、声がした。
「帰りたい……」
巻き貝が泣いた。
この声が、レイには聞こえていたのだろうか。
レイは変わらずくうんと鳴きながら私の膝裏を鼻先で押してくる。まるでうながすように。
海。ここから歩いて三十分の距離。遠いと言えば遠いけれど、徒歩圏内に海があるのは幸せだ。子どもの頃はそう思っていたのにもう何年も海を見ていない。毎日の生活に追われて存在すら忘れていた。
「帰りたい……」
巻き貝がまた泣いた。
目を瞑る。海までの道を思い出す。
松の林の小道を下って海藻と小枝が散らばる砂浜を抜けて、波打ち際へ。
耳元で繰り返し打ち寄せる波の音が私を誘う。
「行こうか?」
傍らのレイに問いかけると嬉しそうに鳴いた。
海まで歩いてそれから家に連絡して車で迎えに来てもらおう。たぶんその頃なら車通勤の母も帰宅しているはず。
細かいことはあとでいい。今はまず。
海へ一歩。
踏み出したとたんに潮風に包まれた気がした。
短編小説『裏返し』
「やんなくていい! 自分でできるもん!」
大きな声で自己主張する子どもの顔をまじまじと見る。
真っ赤な頬、涙がたまった下まぶた、震える唇。
どうやら「だからやってあげるよ」と声をかけたのは間違いだったようだ。
パジャマが脱げないしズボンが履けない。できないから、毎朝自分で自分にいらいらしてる。本音を言えばこっちだって時間がない。少しでも早く着替えさせて、できれば一本前の快速電車に乗りたい。機嫌を悪くして保育園行かないとか、泣きっぱなしで通園とかはさすがに勘弁。だから、いつものように手を出してささっと着替えを終わらせようとしたのだけれど。
「そっか」
そう、自分がやりたいんだよね。
愛情じゃなくて自己都合の裏返し。
子どもの心理は二の次で、あとが面倒だからと自分本位に手を貸していた。
そう、自分でやりたいんだよね。
自己主張もイライラも成長の裏返し。
毎日の繰り返しだと思っていたのに自我と自立心が芽生えてきてた。
「できた!」
はっとして顔をあげると、さっきまでの怒りが嘘のように得意げな顔になって目の間に立っていた。
「そう、自分で全部できたの! えらいねぇ!」
大げさに褒めると子どもは全身で喜ぶようにして両手を上げてジャンプした。真っ赤な頬はそのままに落っこちそうなくらい揺れている。かわいい。両手に挟んでキスをしたい。
こういう瞬間があるからやっていけるんだよな、と一緒に笑顔になりながら。
「さあ、保育園行こっか」
そうして小さくてあったかい手を引いて玄関に向かう。
裏返しに履いたズボンは見なかったことにして。