【泣かないで】
取扱説明書
本商品をご購入いただき、ありがとうございます。
使用するにあたって、必ずこちらを読んでください。
よく泣きます。その際、十分に注意して接してあげてください。
背中をさすってあげてください。
顔は見ないであげてください。恥ずかしがります。
「大丈夫」と何度か言ってあげてください。
「一人がいい」と言われた場合、話しかけないでその場から離れてください。それから、
決して、「泣かないで」とは言わないでください。
泣きたくなくても涙が勝手に出てくるんです。
感情を殺したくないだけ。いつも笑顔でいられたら、どんなに良いかくらい分かってます。
先述した通り、一人でいたい場合がございますが、
心の内ではあなたのそばにいたいんです。
以上になります。
あとは、楽しく私と暮らしていただければ幸いです。
【冬のはじまり】
あー、やっぱりまだ夏服に薄いカーディガンで来た
ほうが良かったかな。
別に、暑くも寒くもない。
学校の冬のはじまりはここからである。
この二週間ほどの間に、教室は少しずつ紺色に染まっていく。ただ、最初の紺と最後の白が目立つという話。
心配性の母が
「今日から寒くなるって天気予報でも言ってたから!ねっ!」
と、冬用の制服を渡してきたので、仕方なく着た。
教室に一人、ぽつんと寒がりな私。
まぁ、母が私のことを想ってくれたということだから、良しとしておこうか。
自己解決を済ませ、数学の教科書とノートを出した。
【愛情】
恋をするというのは、特定の人を好きになり、独り占めにしたい、一緒になりたいと願うことらしい。
時に胸が痛く、時に堪らなく楽しいという。
では、愛とはなんなのだろうか。
「恋の先にあるものかな」
「そうですか」
夫婦の間にあるもの?自らの子に抱く感情?
多くの場合、周りの者からはそれが永遠に続くことを応援される。
対象やカタチによっては、軽蔑の眼差しを向けられることもある。
たくさんのデータから、答えは導き出せなかった。
ニンゲンの考えは、理解がまだ難しい。
愛情というのは、表現の仕方が自由らしい。
「貴方は、誰に、どのようにして伝えるのですか?」
「んー、伝えるというより…」
注ぐ、かな。妻と娘に、ね。
彼はそう言うと、自身の頬を少しだけ赤らめた。
「…そうですか」
ワタシも、体験してみたら分かるだろうか。
…体験、できるのだろうか。いつか、特定の何かに向けて、愛情を注げるだろうか。
ニンゲンの考えは、理解がまだ難しい。
【太陽の下で】
私は、空が好きだ。理科が好きだ。
きっかけは、夕焼けを画面の中に閉じ込めたあの日。
「空、好き?」
中学の時、先生に突然言われた。
「…はい!」
「そっか」
担任でもないのに、あの先生は気にかけてくれた。
本当に、楽しかった。
お父さんにカメラを貰ってから、旅行に行くたび風景をたくさん撮るようになった。大好きな空を入れて。
中でも太陽は特別だ。夜の月や星座を見るのもいいけれど、無数にある恒星の中、一際目立つ情熱の星がやはり好きなのである。
写真は、思い出を一枚に残しておける。ずっとずっと、自分だけの宝物にして。
あれから十年と少し。
外に出る授業は、自分含め皆心が踊る。
「絶対太陽見ちゃダメだよー、本当に目見えなくなるからねー!」
「はーい」
黄色い帽子を被った子どもたちが、興味津々に様々な物を拡大して見始める。
次に、黒い画用紙を用意する。日光を集め、みんなの目が釘付けになる。微笑ましい。
「うわ、すっげー!」
「これでさ!料理とかできる!?」
「流石に無理でしょ」
誰かが言った。全員が笑う。
算数が嫌いな子、絵を描くのが苦手な子、歌を歌うのが大好きな子、みんなを笑わせるのが得意な子。
個性豊かで、あたたかい。
それぞれが新しい発見に夢中で…
自分も昔、こう見えてたのかな。
何かに夢中な人間の瞳ほど、眩しいものはない。
あの星に負けないくらいに。
自分たちを照らす太陽の下で、今この北半球で、一体どれだけの人が笑っているのか。
こちらでは夜が来ても、世界のどこかで朝が来る。
遠く熱い、あの存在さえあれば、この地球からは一瞬たりとも笑顔が絶えないのだろうな。
そんなことを考えながら、今日も私は、写真を見返す時間を終えて授業準備をする。