【さぁ冒険だ】
勇者はしんでしまった!
「あっセーブしてない」
画面の中で、勇者はデジャヴを感じながら出発した。
初っ端からドラゴンに立ち向かうのはやめよう。
地道にレベル上げをするんだ。
これは現実でも役に立つ。
初っ端から応用問題に立ち向かうのはやめよう。
基礎問題から解くんだ。
その場合、私はそのゲーム(数学)をしたがらないかもしれない…
【追い風】
風に身を任せて、遠くまで飛んでいきたいなぁ。
どんな向きの風だって、追い風にしちゃえばいいじゃないか。
そうしたら、一年後には何処にいるんだろう?
たんぽぽの綿毛になってみなきゃ分かんないね。
【泣かないで】
取扱説明書
本商品をご購入いただき、ありがとうございます。
使用するにあたって、必ずこちらを読んでください。
よく泣きます。その際、十分に注意して接してあげてください。
背中をさすってあげてください。
顔は見ないであげてください。恥ずかしがります。
「大丈夫」と何度か言ってあげてください。
「一人がいい」と言われた場合、話しかけないでその場から離れてください。それから、
決して、「泣かないで」とは言わないでください。
泣きたくなくても涙が勝手に出てくるんです。
感情を殺したくないだけ。いつも笑顔でいられたら、どんなに良いかくらい分かってます。
先述した通り、一人でいたい場合がございますが、
心の内ではあなたのそばにいたいんです。
以上になります。
あとは、楽しく私と暮らしていただければ幸いです。
【冬のはじまり】
あー、やっぱりまだ夏服に薄いカーディガンで来た
ほうが良かったかな。
別に、暑くも寒くもない。
学校の冬のはじまりはここからである。
この二週間ほどの間に、教室は少しずつ紺色に染まっていく。ただ、最初の紺と最後の白が目立つという話。
心配性の母が
「今日から寒くなるって天気予報でも言ってたから!ねっ!」
と、冬用の制服を渡してきたので、仕方なく着た。
教室に一人、ぽつんと寒がりな私。
まぁ、母が私のことを想ってくれたということだから、良しとしておこうか。
自己解決を済ませ、数学の教科書とノートを出した。
【太陽の下で】
私は、空が好きだ。理科が好きだ。
きっかけは、夕焼けを画面の中に閉じ込めたあの日。
「空、好き?」
中学の時、先生に突然言われた。
「…はい!」
「そっか」
担任でもないのに、あの先生は気にかけてくれた。
本当に、楽しかった。
お父さんにカメラを貰ってから、旅行に行くたび風景をたくさん撮るようになった。大好きな空を入れて。
中でも太陽は特別だ。夜の月や星座を見るのもいいけれど、無数にある恒星の中、一際目立つ情熱の星がやはり好きなのである。
写真は、思い出を一枚に残しておける。ずっとずっと、自分だけの宝物にして。
あれから十年と少し。
外に出る授業は、自分含め皆心が踊る。
「絶対太陽見ちゃダメだよー、本当に目見えなくなるからねー!」
「はーい」
黄色い帽子を被った子どもたちが、興味津々に様々な物を拡大して見始める。
次に、黒い画用紙を用意する。日光を集め、みんなの目が釘付けになる。微笑ましい。
「うわ、すっげー!」
「これでさ!料理とかできる!?」
「流石に無理でしょ」
誰かが言った。全員が笑う。
算数が嫌いな子、絵を描くのが苦手な子、歌を歌うのが大好きな子、みんなを笑わせるのが得意な子。
個性豊かで、あたたかい。
それぞれが新しい発見に夢中で…
自分も昔、こう見えてたのかな。
何かに夢中な人間の瞳ほど、眩しいものはない。
あの星に負けないくらいに。
自分たちを照らす太陽の下で、今この北半球で、一体どれだけの人が笑っているのか。
こちらでは夜が来ても、世界のどこかで朝が来る。
遠く熱い、あの存在さえあれば、この地球からは一瞬たりとも笑顔が絶えないのだろうな。
そんなことを考えながら、今日も私は、写真を見返す時間を終えて授業準備をする。