梅雨空けて八月
日本では盆に向けて夏の暑さはギアを入れ替えた
夏日和には蝉が鳴くが酷暑だと鳴くどころか項垂れ
陽の恵みで育つ野菜も萎えてしまった
すべてが嫌になりかけた己の根性のなさに抗うように
顔を洗い、昼食を兼ねた朝食を済まし煙草を吸う
扇風機が煙と灰を消し飛ばすから
いつもより速く吸い終える
愛用の金魚鉢の灰皿に煙草をねじる
こんな日にアスファルトの上を歩くなんざどこの阿呆だとぶつぶつ心で呟きながら平静を保つ
パチンコ屋に涼みに行くはずが途中で諦め公園の木陰のベンチに座る
日陰だろうがこの暑さは関係なく鬱陶しいが座るだけでもかなり休まる
これからどうしようか考えて考えた挙げ句
浮かばないから帰ることにした
何故か麦わら帽子を買って。
海沿いにある夜の公園
彼女は死にたいと、もう疲れたと
メールが届く
私は死にたいなら一緒に死んでもいいよと送った
これから死ぬとメールが届いた
私は返信せず海に飛び込んだ
何故か心の中で
鐘の音が聞こえる
明日、もし晴れたら
苦手なコーヒーを淹れてみよう
もし、コーヒーを美味しく飲めたら
朝のニュース番組の星座占いを観てみよう
もし、占いが1位だったら
庭で四つ葉のクローバーを探してみよう
もし、四つ葉のクローバーを見つけたら
いつもと違う道を通って学校に行ってみよう
もし、そこで君に偶然会ってしまったら
君に話しかけよう・・・
それほど、私には勇気がない
そんなに偶然は重ならない
妄想の中でさえ意気地なし
馬鹿なこと考えていないで
もう寝よう
明日の予報は雨
おやすみなさい
・・・
鳥のさえずりで目が覚める
・・・
半分寝惚けたままカーテンを開ける
・・・
・・・
・・・
胸騒ぎを抑えながらコーヒーを淹れる
・・・
しまった!コーヒーが美味しい。
朝の5時、朝霧が晴れて海がすっきりみえる
今日の波は穏やかで、防波堤に打つ波はトロッとしていた
海沿いの緑地公園、小さな丘があり、そこにある東屋で
コンビニのコーヒーを飲むのが私の趣味。毎日ではない。
早起きして時間があるとき、ふとここに来たくなったとき
仕事の前でも休みの日でもここに来て海を眺める。
朝はいつも風が静かで涼しく心地よいので、不意につく溜め息にも幸福が混ざる、きっとここは私のオアシスだ。
私はいつもここで妻のことを考える
彼女は病気ではないが人より物事や言葉を敏感に感じとる性質で不安や緊張に弱く、ここ数年仕事が出来ず人との関わりも避けている。
友人たちとも、つい自分と比較してしまい落ち込むので距離を置いてしまう。
情緒に波があり悪いときは死にたいと嘆き、良いときは散歩に出掛けたり午前中から料理や掃除など家事をする。
そんな妻との暮らしはそれなりに楽しく、私としては充実した生活を送れていると思っている。
しかし、妻のことを想うとどうにかしてやりたいと、彼女の理想の自分や暮らしに近づけてやりたいと悩んでいる。
今まで色々と話し合って試してみたが良い方法は見つからず、このままでも大丈夫だよと言う反面、ずっとこのままなのだろうかと苦悶する。
私は無力。大切な人1人幸せに出来ないなどと焦心する。
妻は私に、一緒に居てくれるだけで私は幸せ者ですと言うが、やはりそれだけでは生きている意味を見いだせてはいないのが見ていて分かる。
時間と共に変わってゆく想いや環境があるなかで、時代には合わせて生きてゆかねば、社会の中で、人の巡る世界で幸せにはなれない。
妻との二人きりの世界で生きたいと私は思う。
そんな私がこの公園に来ると何故か知らぬがこう思う。
きっと妻は、彼女は自分で乗り越えてくれるだろう、すべて思うままに任せてみよう。そう思える。
だから私はここで1人でいたいのだ。
あの澄んだ瞳は忘れない
たとえ映るのが曇り空でも聡明で
暗い影すら透すその瞳には
なにを重ねても無限の光が差している
今までの日々も、血と汗も、忘れえぬ悲劇も
いつまでもその瞳は美しい
今はその瞳は閉じたまま
二度と開かない
私には何も出来はしないだろう