『プライマル』
愛に逃げて溺れて自惚れて 終いには慟哭 他人の泪でできた沼 独りよがりで毒の沼 初期設定なんて完全に忘れて今ではすっかり化石だよ 物好きな地質学者が『愛の叫びを発掘した‼︎』と驚嘆の声をあげる
自家用のUFOはバッテリーが切れそうだ 草臥れて銀河の帰路につく
『キャベツ畑の幽霊』
キャベツ畑 広がる翠緑の中 幽霊を見た気がした
飴色のタクシーは農道で停まったままだ 何処へ向かう?何処へ帰る? 感受性のさもしさは大問題で私のノートが埋まらない せめて呼吸よ止まるな 意識はいい呼吸よ止まるな
『裸婦』
この部屋は空虚だ 部屋の外も退屈で身体はもはや半透明 透明なのに重いんだ 思い出を引きずっているからね 忘れることを忘れた頭は丁度、北南を向いて
ラズベリーパイを食べている こうなれば部屋の外にふわりと飛び出す プチ家出というやつだ。二日と少しで自宅に帰る 結局、空虚が好きなのだ。付けたままの換気扇の旋律に身を委ね、またその時を待つ
『時間結び』
時間と時間を結んでく 明日と今日を紡いでく ひと月過ぎて またひと月過ぎて 半年経って振り返る
始まりの時計台はもう見えない だけども糸は繋がっている 『一年後が楽しみだ』時間結びの旅人はそう呟いて、針穴に目を凝らす
『初恋の日』
微熱のためか、ぼんやりしていた 暗室になった体育館 スクリーンに映るのはジブリ映画か 薄目を開けて眺めていると 物語を超えて その色調に溶け込んでいくようだった 無論、私は早退を余儀無くされた
後日、予想だにしない子が私の事を心配してくれていたことを知った。それだけで、いつもと変わらぬ日々
ただ、ほんの少しあの子の事を考える時間が増えていた