『裸婦』
この部屋は空虚だ 部屋の外も退屈で身体はもはや半透明 透明なのに重いんだ 思い出を引きずっているからね 忘れることを忘れた頭は丁度、北南を向いて
ラズベリーパイを食べている こうなれば部屋の外にふわりと飛び出す プチ家出というやつだ。二日と少しで自宅に帰る 結局、空虚が好きなのだ。付けたままの換気扇の旋律に身を委ね、またその時を待つ
『時間結び』
時間と時間を結んでく 明日と今日を紡いでく ひと月過ぎて またひと月過ぎて 半年経って振り返る
始まりの時計台はもう見えない だけども糸は繋がっている 『一年後が楽しみだ』時間結びの旅人はそう呟いて、針穴に目を凝らす
『初恋の日』
微熱のためか、ぼんやりしていた 暗室になった体育館 スクリーンに映るのはジブリ映画か 薄目を開けて眺めていると 物語を超えて その色調に溶け込んでいくようだった 無論、私は早退を余儀無くされた
後日、予想だにしない子が私の事を心配してくれていたことを知った。それだけで、いつもと変わらぬ日々
ただ、ほんの少しあの子の事を考える時間が増えていた
『明日』
明日世界が終わるというのに 沸騰するやかんにあたふたしている ちょっぴりひしゃげたチリトリも買い替えるかどうか迷っている さほど面識のない近所の人に『また明日』と声をかけている 少し余ったカレールー、カレードリアにアレンジしようと思いつく
このエプロン、洗おうかと思い、洗濯カゴの前で思い留まる そうだね、明日世界が終わるというのに
『恋愛前夜』
心臓に雷鳴 私はきっと恋をした ちょっときつい階段を上るみたいに段々とそれに気づいたようだ 今夜はちょっと心の支度が必要で『恋愛前夜』ということにする 胸がきゅっと締めつけられるので 心臓を暫時手放したい 頭はあなたの顔でいっぱいなので、バックアップを取らせて下さい。 こんな夜はどうしよう? こんな夜はもうどうしようもないとあきらめよう