『雨模様』
よそゆきを羽織る大事な日 外はひどい雨だった
大事な日なのにまったくどうして 私はひどく落ち込んだ 私は魔法使いじゃないよ 天気はとっても変えられない だから少し考えて よそゆきに滴る雨だれを『雨模様』と呼んでみた そしたらふいに空を着ている気分になって 魔法使いみたく傘振った
『日常の中の日常』
一週間が一年がそれよりもっと永いあいだかも
日常はマトリョーシカ 中の中のその中に特別なこと
が隠れてる 敢えてそれを探すことはないけれど
日々の中でふと気づく あの時のあんなことそんなこと とても大切なことだった 気づいた時には触れられなくて どこにいるやらと思ったら それは私の中にいた コップ一杯のお水のように とっくに私の中にいた
『愚か者』
可愛いと言われて宙に浮き 団地の屋上くらいの所で
萎れて地面に落ちてしまう そんな私ばかみたい
自然と涙が溢れ出て ショートケーキの上
苺の味も思い出せない 他人は勝手だとわかっているのに 飲み込まれては反吐の渦 結局いつも愚かは私
化粧が剥がれて憂愁の渦
『青春二人ぼっち』
世界の終わりのような大きな夕日 紅く染まる明大前
パッとしないネルシャツで君に声をかける
所用を済ませたら帰ろうと思ってた だけどこんなときに少し不思議はやってくる 駅の雑踏からなぜか僕らは二人ぼっち 咳をしていたおじさんも 画家風の学生も もういないもういない 夕日はとっくに溶けてきて だるま食堂Aセットの生卵のようになっている 僕はネルシャツの袖を上げる 意味もなく 君は地面に円を描く これもまた意味もなく そうだ、少し不思議の正体は青春そのものだったのだ
『東風』
審判の朝、罠なんじゃないかって思うほど空が晴れ晴れとしている 知らないけれど居心地の良い街並みを歩く 時折、知らないけれどやはり居心地の良い友人たち(本当は知っている?)とすれ違ってはタッチする 左手にはコロナビール 立ち寄ったライブバーは
改装中だった 酔いのせいか記憶が溶けていく
私が誰かは知らないが 溶けていく記憶の中、私が私になっていく